ついに発見された理論上の超新星

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白色矮星として生涯を終える低質量星と超新星となる大質量星の分岐点に近い恒星が起こす「電子捕獲型超新星」が、理論的予測から40年近くの時を経て、初めて観測で確認された。

【2021年6月29日 国立天文台科学研究部

太陽のように質量が比較的小さな恒星は寿命を迎えるとゆるやかに白色矮星へと移行するのに対して、太陽の8倍以上の質量を持つ恒星は超新星爆発を起こす。その分岐点にあたる質量の恒星は「電子捕獲型超新星」と呼ばれる特殊なメカニズムで爆発することが、東京大学の野本憲一さんたちによる理論研究により約40年前に予測されていた。しかし、このタイプの超新星が実際の観測で確認された例はなかった。

恒星は軽い元素から重い元素を作り出す核融合反応によってエネルギーを生み出しており、恒星の質量が大きいほど、より重い元素を生成する段階まで核融合が進む。質量が太陽の10倍以上であれば鉄のコア(中心核)が形成され、これがガンマ線を吸収して分解することで崩壊する「光分解型超新星」となる。

一方、太陽質量の8~10倍の場合には鉄を生成するには至らず、コアには酸素・ネオン・マグネシウムがたまる。このコアが重力で潰れないように支えているのは、狭い空間に閉じ込められた電子の圧力に他ならない。しかしコアがある程度の質量になると、マグネシウムやネオンが電子を捕獲する反応が始まり、支えを失ってコアは崩壊する。これが電子捕獲型超新星の仕組みだ。

電子捕獲反応の模式図
電子捕獲型超新星の元となる星の内部で起こると考えられる電子捕獲反応の模式図。星の中心部に、酸素・ネオン・マグネシウムから成るコアが形成される。コアは電子の力で支えられるが、電子がマグネシウムやネオンに捕獲されるとコアが支えられなくなり爆発が起こる(提供:S. Wilkinson; Las Cumbres Observatory)

理論的に予測されたこのタイプの超新星が現実に確認できる形で出現したのは2018年3月2日で、発見したのは山形県の板垣公一さんだ(参照:「板垣さん、きりん座の銀河に超新星発見、134個目」)。発見時は約18等級だったが数週間のうちに13等台まで明るくなった(参照:「板垣さん発見の超新星2018zdが13等台に増光」)。

超新星2018zd
きりん座の銀河NGC 2146に出現した超新星2018zd(撮影:モンドシャルナさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページ

米・カリフォルニア大学サンタバーバラ校の平松大地さんを中心とする観測チームは、世界中の地上望遠鏡と宇宙望遠鏡で超新星2018zdの詳細な観測を行った。そのデータから、電子捕獲型超新星を判別する上で必要な「爆発前の天体の特定」「周辺の物質」「組成」「爆発エネルギー」「光度変化」「元素合成」という6つの基準の全てをこの超新星が満たしていることが確認された。このうち爆発前の恒星についてはハッブル宇宙望遠鏡が偶然観測しており、太陽の約8倍の質量を持っていたこともわかった。

長らく電子捕獲型超新星が見つからなかったのは、その観測的特徴が明確でなかったのも一因である。今回、電子捕獲型超新星の特徴がはっきりしたことで発見例が増えれば、正確な出現頻度もわかると期待される。その先には、白色矮星にとどまる恒星と超新星爆発を起こす恒星の境目を正確に決めるという重要な課題がある。「これほどまで電子捕獲型超新星の理論予測と一致する超新星が存在することに驚きました。恒星の進化の重要な未解決問題に決着をつける大発見であると考えています」(国立天文台 守屋尭さん)。

今回の研究では、爆発直後に超新星2018zdが発見されたこと、光度変化が観測されたことも、天体の正体を明らかにする上で重要な役割を果たしており、発見者の板垣さんと、爆発直後の詳細な明るさの変化を記録した千葉県の野口敏秀さんの貢献も非常に大きい(お二人も論文の著者に名を連ねている)。世界中の大望遠鏡で超新星探しが行われている現代においても、アマチュア天文家による発見と観測が天文学に大きなインパクトを与えていることが示された重要な成果でもある。

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