ぶ厚い彩層を持つアンタレス
【2020年6月22日 アルマ望遠鏡】
アイルランド・ダブリン高等研究所のEamon O'Gormanさんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡と米国立電波天文台(NRAO)のカール・ジャンスキー超大型電波干渉計(VLA)を使って、さそり座の1等星アンタレスをきわめて高い分解能で観測した。
アンタレスは星の一生で晩年にあたる、「赤色超巨星」と呼ばれるタイプの星だ。星全体が大きく膨張していて表面温度は低く、星の中心部では核融合反応の燃料をほとんど使い尽くした状態になっている。やがては中心核が自らの重力でつぶれ、超新星爆発に至る運命にある。
赤色超巨星の表面からは「恒星風」と呼ばれる大量のガスが宇宙空間に流れ出ている。このガスには星の内部で作られた様々な重元素が含まれている。こうした元素は生命の材料にもなる物質なので、赤色超巨星から放出されたガスがどのように宇宙空間に拡がるかを知ることは、生命の起源を解明することにもつながる。恒星風がどのような仕組みで放出されるのかはいまだ完全には解明されていないため、地球に最も近い(約550光年)赤色超巨星の一つであるアンタレスの大気を詳しく観測することは、恒星風の謎を解く上でも非常に重要だ。
研究チームでは、アルマ望遠鏡で波長0.7~3mmの電波を使い、アンタレスの表面近くの様子を調べた。さらに、VLAではやや波長の長い7mm~10cmの電波を使って、アンタレスの大気の外層を調べた。今回得られた画像は、太陽以外の恒星の電波画像としてはこれまでで最も解像度が高いものだ。
恒星はガスからなる球体なので、固体の天体のようなはっきりした表面を持たない。そこで、入った光の強さが恒星本体のガスに吸収・散乱されて約1/3にまで減る深さの場所を便宜的に「表面」とし、これより深い不透明な部分を「光球」、これより浅い、比較的透明な部分を「恒星大気」と呼んでいる。このため、星のサイズは観測する電磁波の波長によっても変わる。
可視光線で見ると、アンタレスの光球は太陽の700倍の直径を持っている。しかし今回の観測から、電波で見えるアンタレス周囲のガスはさらに広大な領域に広がっていることがわかった。「VLAが観測した長波長の電波では、アンタレスの大気は星自身の半径のおよそ12倍の範囲にまで広がっていました」(O'Gormanさん)。
また研究チームは、アンタレスの「彩層」と呼ばれる大気層の温度も測定した。彩層は光球のすぐ上の部分で、電離水素のHα線など様々な輝線が見られる。太陽の彩層は皆既日食のときに赤い縁取りのように見えるが、太陽以外の星の彩層を電波で詳しく調べることに成功したのは今回が初めてだ。
観測の結果、アンタレスの彩層は光球の2.5倍の領域にまで広がっていることが明らかになった。太陽の彩層の厚みが光球の200分の1であることと比べると、アンタレスの彩層がいかにぶ厚いかがわかる。また、太陽の彩層の温度が約2万℃であるのに対して、アンタレスの彩層は最高でも3500℃と、過去の観測と比べてもかなり低いことがわかった。
「アンタレスやベテルギウスのような赤色超巨星は不均一な大気を持っていると考えられます。こうした星の大気は、異なる温度を表す違った色の点で描かれた点描の絵のようなものです。ほとんどの点は電波で見ることができる『ぬるい』ガスですが、赤外線望遠鏡でしか見えない低温の点や紫外線で見える高温の点もあります。今のところ、これらの点を一つ一つ見分けることはできませんが、将来的にはぜひ挑戦したいと思っています」(チリ・カトリカ・デル・ノルテ大学 大仲圭一さん)。
NRAOのプレスリリースページでは、太陽系のサイズと比較したアンタレスの大気構造の立体モデルを動かして体験できるARコンテンツも公開されている。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:電波望遠鏡で見た赤色超巨星アンタレスの大気
- NRAO:Supergiant Atmosphere of Antares Revealed by Radio Telescopes
- Astronomy & Astrophysics:ALMA and VLA reveal the lukewarm chromospheres of the nearby red supergiants Antares and Betelgeuse 論文
〈関連リンク〉
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