激しい勢いで失われていく土星の環
【2018年12月26日 NASA】
土星本体へは、環から氷の粒子が雨のように降り注いでいる。これは探査機「ボイジャー2号」が1981年に撮影した画像に見られた、北半球の中緯度域の成層圏内に存在する3本の暗い縞模様がきっかけとなって明らかになったことだ。
NASAゴダード宇宙飛行センターのJack Connerneyさんたちの研究チームは1986年の研究論文で、この模様と土星の強力な磁場との関係を発表した。環の中で帯電した氷の粒子が磁力線に沿って土星の環から土星へと移動し、成層圏のもやを流し、その部分が反射光では暗く見えている、というものだ。
土星の環はほとんどが氷でできており、その粒の大きさは肉眼で見えないほどの塵ほどのサイズから、数mの岩塊ほどまである。氷の粒が環に留まっていられるのは、土星本体から受ける重力と環が回転することによる遠心力とが釣り合っているからだ。しかし、太陽の紫外線の影響等によって氷の粒が帯電すると、バランスが崩れて、氷は磁場に沿って本体へと降っていく。
NASAゴダード宇宙飛行センターJames O'Donoghueさんたちの研究チームは、2011年に行った米・ハワイのケック望遠鏡による赤外線波長での観測から、H3+イオンが土星の南北の両半球で帯状に輝いている様子を観測した。そのデータの分析から、環から降る雨の量が、30年以上前にボイジャーの探査データから計算された驚くほど大きな値とよく一致することが明らかになった。
研究内容の紹介動画「Saturn's Rings Are Disappearng」(提供: NASA’s Goddard Space Flight Center/David Ladd)
「『環の雨』は、30分でオリンピックのプールをいっぱいにできるほどの勢いで土星本体に降り注いでいます。これだけでも、環全体は3億年で消えてしまいます。さらに探査機『カッシーニ』が発見した、土星本体の赤道域へ環の物質が降り注ぐ現象を加味すると、土星の象徴である環は1億年未満で消えます。40億年以上にも及ぶ土星の歴史と比べると、ずっと短期間です」(O'Donoghueさん)。
土星の環が内側から外側の順に消えていく様子を示した動画(提供:NASA/Cassini/James O'Donoghue)
土星本体と環は一緒に形成されたのか、本体形成後に環を構成する物質を土星が獲得したのかは、はっきりわかっていないが、今回の研究結果は後者のシナリオを支持しており、環の年齢は1億年未満と考えられる。「土星の環は寿命の中期にあるようです。環を持つ土星の姿を見ることができた私たちは幸運です」(O’Donoghueさん)。
研究チームは、南半球のさらに高緯度にも光を放つ帯を発見している。これは、間欠泉が存在する土星の衛星「エンケラドス」からの水蒸気や氷の粒の一部も、磁場に沿って土星本体へ降り注いでいることを示すものだ。
土星が29.4年の周期で公転する間に、環への太陽光の当たり方が変化すると、環から降る雨の量にも変化があるはずだ。研究チームでは今後、季節ごとの雨の降り方の違いを明らかにしていく意向である。
〈参照〉
- NASA:NASA Research Reveals Saturn is Losing Its Rings at “Worst-Case-Scenario” Rate
- Icarus:Observations of the chemical and thermal response of ‘ring rain’ on Saturn’s ionosphere 論文
- Geophysical Research Letters:Magnetic connection for Saturn's rings and atmosphere Connerneyさんたちが1986年に発表した研究論文
〈関連リンク〉
- ボイジャー
- Cassini:
- アストロアーツ:
- 【特集】環のある星 土星(2018年)
- 天体写真ギャラリー:2018年 土星
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