宇宙から降り注ぐ宇宙線「空気シャワー」の可視化に成功

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すばる望遠鏡が撮影した画像の解析で、宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子の「空気シャワー」を高空間分解能で可視化できることが示された。ダークマター探査などにつながる手法になると期待される。

【2023年10月19日 すばる望遠鏡

宇宙空間には高エネルギーの放射線である宇宙線が存在し、地球に絶えず降り注いでいる。なかでも非常に高いエネルギーを持った宇宙線は、地球大気に入射すると大量の電子や陽電子、ミューオンなどからなる高エネルギー粒子群「空気シャワー」となって地表に到来する。

米・ハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC;ハイパー・シュプリーム・カム)」で撮影された画像には、宇宙線がCCDを貫通することで生じる飛跡が1回の撮影につき約2万個映り込む。この飛跡は星や銀河を観測する天体観測においてはノイズとなるため、通常はデータ処理の過程で除去される。

2014年から2020年にかけてHSCを用いて実施された大規模サーベイ「すばる戦略枠プログラム(HSC-SSP)」で撮影された画像約1万7000枚について、国立天文台ハワイ観測所の川野元聡さんたちの研究チームは、映り込んだ宇宙線の飛跡を詳しく再解析した。その結果、13枚の画像に通常の飛跡数をはるかに上回る空気シャワーの粒子群がとらえられていたことがわかった。空気シャワーの飛跡が同じ方向を向いていることから、非常にエネルギーの高い1つの宇宙線から生成された2次粒子群だとみられる。

可視化された空気シャワー
(上段)すばる望遠鏡のHSCで可視化された空気シャワー(黄色)。(下段左)宇宙線がCCD内を通過したときに残る飛跡の概念図、(下段右)116個(各6cm×3cm)のCCDが設置されているHSCのカメラ部分(提供:(上段)NAOJ/HSC Collaboration、(下段)大阪公立大学/HSC Project)

このような事象が系統的に解析され、専門誌に報告された例はこれまでにない。シャワーを検出するためには、それが広がる前の高山での観測と、長い軌跡の記録を可能にする充分な厚み検出器の両方が必要となる。HSCが標高4200mという高地に設置されていること、空乏層の厚いCCDを採用していること、さらに運用が長期にわたっているという条件が揃うことで、これまでに例のないデータの取得が可能となった。

この成果は、従来とは全く別の角度からHSCとそのサーベイのユニークさを示すものとなっただけでなく、同手法のさらなる潜在的な可能性も示している。従来の宇宙線検出器は、入射した宇宙線の総粒子数と時刻情報を記録するものであるため、空気シャワーを構成している粒子の種類は区別できない。しかし、HSCに搭載されているCCDを使えば、各飛跡の形からミューオンか電子であるかを個別に判断できる可能性がある。

「空気シャワーの粒子がこれほど詳細に見えたことは、宇宙線研究の新たな方法を拓く可能性があり、とても興味深く感じています。本研究は、異分野との共同研究の重要性と“捨てる神あれば拾う神あり”を証明しています。将来的には、本研究の新しい観測手法と伝統的な観測手法の特徴を活かし、宇宙線の解明に重要な質量組成(粒子種)を決定したいです」(大阪公立大学 Fraser Bradfieldさん)。

HSCがとらえた空気シャワーにはダークマター由来の信号が含まれている可能性も示唆されることから、ダークマター探査への応用が考えられる。また、宇宙のはじまりに物質と同じだけ存在した反物質が現在では消え去って普通物質が大部分を占める「物質優勢の宇宙」となった原因を探るという、新たな研究分野の開拓につながる可能性も期待される。

「天体画像においては補正の対象である宇宙線イベントですが、HSC-SSPという長期にわたる一様な観測データを解析することで、元々の観測目的ではなかった科学の領域まで有効な情報を引き出せる可能性を示すことができました。高エネルギー粒子の観測手法についての知見はもちろん、一様な品質が保証されたデータアーカイブの重要性についての示唆も与える結果であったと考えています」(川野元さん)。

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