「宇宙の灯台」を乱す低周波重力波の証拠

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複数のミリ秒パルサーの長期精密観測から、数年に1度の周期でしか振動しない低周波数の重力波が宇宙のあらゆる方向から飛来している有力な証拠が得られた。

【2023年7月5日 熊本大学

時空のゆがみが波となって重力を伝えることはアインシュタインが予言し、予言から約100年後の2016年に初めてブラックホールの合体に伴う重力波が検出された(参照:「アインシュタインの予測から100年、重力波を直接検出」)。以来、何度も重力波が観測されているが、その周波数は概ね数十~数百Hz(波が1秒に数十から数百回振動)だ。それに対し、重力波の中には周波数がnHz(ナノヘルツ、数年から数十年に1回の振動)単位のものもある。

このような「ナノヘルツ重力波」は、太陽の数億倍から数百億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールの連星が合体する際に放出されるほか、宇宙が生まれてからわずか数秒のうちに生じた現象も極めて低い周波数の重力波を発生させる可能性がある。これらの重力波は重なり合って、宇宙のあらゆる方向から伝わってきている(背景重力波)と考えられている。

ナノヘルツ重力波は地上の検出器で直接的にはとらえられないが、検出手段として期待されるのが「パルサー」を利用する方法だ。パルサーは高速で自転する中性子星で、極めて正確な周期で電波パルスを発していることから「宇宙の灯台」とも呼ばれる。パルサーを観測しているときに、地球の近傍を重力波が通過すれば、パルスにわずかなずれが検出されるはずだ。しかし、そのずれはごくわずかであり、振動も数年単位であるため、長期間の観測を要する。

ミリ秒パルサーのモニタリング観測のイメージイラスト
ミリ秒パルサーのモニタリング観測のイメージイラスト(提供:Danielle Futselaar (artsource.nl) / MPIfR)

そこで、パルスの周期が10ミリ秒程度のミリ秒パルサーをとらえ続け、周期の変化を100ナノ秒(1000万分の1秒)の精度で測定することを目指した精密観測が行われてきた。その一つである日印共同の「インド・パルサー・タイミング・アレイ実験」(InPTA; Indian Pulsar Timing Array Experiment)は、高感度な望遠鏡であるインドの巨大メートル波電波干渉計(uGMRT; Giant Metrewave Radio Telescope)を用いた観測を続けている。

uGMRT
uGMRTは45mアンテナ30台で構成される。100MHz帯から1GHz帯の電波を高感度で観測できる世界最高性能の電波望遠鏡の一つ(提供:GMRT Project, Tata Institute of Fundamental Research (TIFR))

InPTAは、24年前から欧州の電波望遠鏡で観測を続けてきた「ヨーロピアン・パルサー・タイミング・アレイ実験」(EPTA; European Pulsar Timing Array)と協力して、25個のパルサーからのデータを解析した。その結果、全てのパルサーからの信号に共通して、特徴的な不規則性があることが判明した。変動の仕方は、信号がナノヘルツ重力波の影響を受けたと考えても矛盾しないものだった。

今回の成果は、多数の超大質量ブラックホールのペアによって生じる超低周波の重力波が宇宙空間を絶え間なく振動させているという現象を示す、重要な証拠と言える。「その信号は、まるで宇宙時計が時空の波に揺さぶられているかのように、長年のパルサー観測を通してずっと継続しています。この新たな証拠は、宇宙物理学者が期待するものと一致しています」(熊本大学 高橋慶太郎さん)。

また、今回の成果と一致する解析結果が、米国とカナダによる「NANOGrav」、オーストラリアの「パークス・パルサー・タイミング・アレイ(PTTA; The Parkes Pulsar Timing Array)」、中国の「中国パルサータイミングアレイ(CPTA; Chinese Pulsar Timing Array)」といった3つの低周波重力波検出プロジェクトからも、それぞれ独立に同時に報告されている。

今後、データを増やして解析を進めることで、背景重力波に関するさらなる手がかりが得られると期待される。「宇宙重力波シンフォニーの低音部を聴くことができるような偉業の達成まで、あと一息です」(印・チェンナイ数理科学研究所 Pratik Tarafdarさん)。

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