日本天文遺産に仙台藩天文学器機など3件認定

このエントリーをはてなブックマークに追加
日本天文学会は、第3回日本天文遺産として「仙台藩天文学器機」「臨時緯度観測所眼視天頂儀」「商船学校天体観測所」を認定した。あわせて、天文教育普及賞の受賞者なども発表された。

【2021年3月24日 日本天文学会(1)(2)(3)

日本天文学会では、歴史的に貴重な天文学・暦学関連の史跡や文献を「日本天文遺産」として認定し、それらの保存や普及、活用を図っている。第3回目(2020年度)の遺産には、「仙台藩天文学器機」(宮城県仙台市)、国立天文台水沢VLBI観測所の「臨時緯度観測所眼視天頂儀及び関連建築物」(岩手県奥州市)、東京海洋大学キャンパスの「商船学校天体観測所」(東京都江東区)が選定された。

仙台藩天文学器機

「仙台藩天文学器機」は、18~19世紀に仙台藩の天文学者たちが製作・使用したもので、渾天儀・象限儀・大小2基の天球儀の合計4点から成る。旧仙台藩主の伊達家に保管されていたが、1956年に仙台市天文台に移され保存公開されている。2012年には国の重要文化財の指定を受けた。

仙台藩天文学器機
渾天儀(上左)、象限儀(上右)、天球儀・大(下左)、天球儀・小(下右)(提供:仙台市天文台)

渾天儀は天の赤道や地平線などのリングを組み合わせた装置で、もともとは天体の位置を測定するために使われた。江戸時代には天体の運動を説明するために小型の渾天儀が数多く作られたが、その中にあって仙台藩の渾天儀は日本に現存する渾天儀で唯一、観測に用いられたことが確認できるものである。

象限儀は四分儀とも呼ばれ、天体の高度を測定する観測装置である。仙台藩の象限儀は、伊能忠敬が使用したものと同じ基本構造であり、幕府の浅草天文台に設置された象限儀とも似ていると推定される。

天球儀は、観測者を中心とした天球を、あたかも外から見たかのようにモデル化した模型である。仙台藩に残された大小2基の天球儀には恒星は記入されておらず、経緯度線が描かれていた。小天球儀には、安永6年10月13日(西暦1777年11月12日)など4件の月の位置が記載されており、実際に研究に使用されたことがうかがえる。

仙台藩の天文学者は渋川春海に始まる幕府の天文方と長らく交流があり、改暦に関わることもあった。そのためこれらの天文学機器は仙台藩だけに留まらず、広く近世日本における天文研究と天体観測の様子を伝えるものとして評価されている。

臨時緯度観測所眼視天頂儀及び関連建築物

国立天文台水沢VLBI観測所において保存・公開されている「眼視天頂儀」は、緯度変化に関する国際共同研究のため、1899年に臨時緯度観測所(現・国立天文台水沢VLB観測所)に設置され、1927年まで緯度測定に使用された。

眼視天頂儀
眼視天頂儀(提供:木村榮記念館)

臨時緯度観測所は、地球の自転軸の運動が引き起こす緯度変化を正確に観測する国際プロジェクトのために、北緯39度8分に置かれた6つの観測所のなかの一つである。初代所長だった木村榮たちは眼視天頂儀で連夜、天頂付近を通過する恒星の位置を精確に測定することで緯度変化を調べ、独・ポツダムに置かれた中央局に報告していた。

観測開始直後の1900年、中央局は、水沢の観測データの誤差が他の観測所よりも大きいと指摘した。だが木村は、緯度変化を求める数式に、それまで見落とされていた「Z項」が必要であることに気づき、さらに、Z項を考慮すると水沢の観測はむしろ精度が高いことを示している。Z項を含む式は万国緯度観測事業で採用され、木村の業績は国際的に評価されることとなった。Z項の原因は地球の内部構造に関する理解が進んだ1970年に判明している。

天文遺産には天頂儀のほかに、これを収めていた眼視天頂儀室、および測定精度を維持するために用いた基準光源が置かれた眼視天頂儀目標台と覆屋も認定されている。

商船学校天体観測所

「商船学校天体観測所(赤道儀室及び子午儀室)」は、1903年に航海天文学の研究・教育を目的に建設された希少な明治期の天文台建築で、東京都江東区にある東京海洋大学越中島キャンパス(旧商船学校キャンパス)に、ほぼ建築当時のままで残されている。

商船学校天体観測所
商船学校天体観測所。手前が赤道儀室で右手奥が子午儀室(提供:日本天文学会)

赤道儀室(第一観測台)は2階建てで、スリットを設けた回転可能な丸屋根を持ち、現存する日本最古のドーム屋根形状の天体観測室として知られている。また、子午儀室(第二観測台)は平屋の八角錐形の固定屋根となっていて、子午線観測用に屋根と壁面にスリットが設けられている。

現存する天体観測施設としては、国立天文台(東京都三鷹市)で最古の天体観測室が1921年、京都大学花山天文台(京都市山科区)が1929年に完成している。それらと比べても、1903年に完成した商船学校天体観測所は古く、貴重な建造物だ。


天文教育普及賞

天文教育や普及活動の分野で特に顕著な貢献をされた個人や団体を顕彰・奨励する「天文教育普及賞」の第3回(2020年度)受賞者として、以下のお二人が選ばれた。

  • 三島和久さん:「人工天体観測の市民向け予報を中心とした天文普及活動」
  • 柴田晋平さん:「「星のソムリエ」制度の創設と人材育成循環による天文普及への貢献」

このほか、林忠四郎賞、天体発見賞等の受賞者については2月5日付記事「2020年度日本天文学会各賞の受賞者発表 本間さん、板垣さんら」を参照のこと。