天体画像処理ソフト ステライメージ8

セルフフラット補正

デジタルカメラによる天体写真撮影の技術は、この10年ほどの間に大きく進化を遂げました。デジタルカメラの高感度化などの機材の性能アップだけでなく、画像処理テクニックの向上もこれを後押ししています。これによって光害地であっても美しい天体写真を簡単に撮影できるようになりました。

光害地での撮影では、バックグラウンドの明るさのムラの除去がうまくいかないという問題があります。これを補正する手段として、「フラットフレーム」を撮影してフラット補正を行うという技法が一般的ですが、ここでは、天体画像から作成したフラットフレームを用いる「セルフフラット補正」の方法を解説します。

都会地での撮影は光ムラが大敵

右の画像は、東京の渋谷で撮影したM27(こぎつね座のあれい状星雲)です。8cm屈折望遠鏡を使って、ISO 500、30秒露出で300枚撮影し、コンポジット合成したものです。

この画像では、背景に赤みがかったムラや、撮像チップ上のゴミなども写っています。

この画像をそのまま強調処理すると、下のように余計にムラが目立ってしまいます。

渋谷で撮影したM27

渋谷で撮影したM27

強調処理したムラのあるM27

強調処理するとムラが目立つ

光ムラの原因と対策

光害地で撮影した画像に発生する光ムラの原因には、以下のようなものがあります。

1. 迷光

望遠鏡のフードで除去しきれなかった光が鏡筒内に反射し、光のムラになります。

これを防ぐには、反射が起こりにくい素材で長いフードを作成し、望遠鏡に取り付けます。

レンズに映る建物

レンズに映る建物

長いフードをつけた望遠鏡

長いフードをつけた望遠鏡

2. 光学系の周辺減光など

バックグラウンドが明るい光害地での撮影では、どうしても光学系の周辺減光が目立ってしまいます。これを補正するには、天体画像処理ソフト「ステライメージ」の機能で周辺減光や傾斜カブリを補正します。

ステライメージでの「周辺減光/カブリ補正」

ステライメージでの「周辺減光/カブリ補正」

ステライメージによる処理で補正しきれない場合には、フラットフレームを撮影してフラット補正を行います。この場合は、イメージセンサ上のゴミの影や感度ムラも補正できるという利点もあります。そのため、この方法は都会地での撮影に限らず、空の暗いところでも有効です。

フラットフレームの撮影には、主に次の2つの方法があります。

  • 発光板を使う
    EL発光版のように自発光するものを望遠鏡の前にかざして撮影します。
  • スカイフラット
    半透明のフィルターを使って、空に向けて撮影します。

いずれの場合も撮影感度は本撮影と同じにして、露出時間で画像の明るさを調整します。また、露出時間をあわせたダークフレームも撮影しておき、フラット画像に対してダーク補正も行います。できれば複数枚撮影して、コンポジット合成をすることでノイズの影響を少なくします。

なおフラット補正は、コンポジット前のすべての画像それぞれに対して行う必要があります。

フラットフレーム撮影の詳細はFAQ「フラットフレームの撮影方法は?」もご参照ください。

発光板

発光板を使ったフラット撮影

3. 上空のチリや霞など

上空にあるチリや霞などが地上の明かりを反射して、ムラになっている場合があります。 これを補正するには、本撮影と同じ状況で半透明のフィルターを使って撮影を行い、明るさのムラだけが記録されたフラットフレームを得ます。

本撮影とフラットフレームは時間を空けずに撮影する必要がありますが、地上の光源がたくさんあって変化が大きい都会地などでは、上空の明るさのムラが本撮影時とは違ってしまうので、フラット補正がうまくいきません。

この問題は撮影後に補正することが難しく、湿気が少ない透明度の良い夜に撮影する必要があるなど天候頼みになってしまいます。

スカイフラット

半透明のフィルターを使って、空に向けて撮影する「スカイフラット」

■ フラット撮影不要!「ステライメージ」でセルフフラット補正

「セルフフラット」は、撮影画像そのものから撮影ムラの情報を引き出してフラットフレームを作成し、このフラットフレームでフラット補正をするというテクニックです。空の状態からくるムラやチップ上のゴミなども補正可能で、フラット画像を撮影していない過去の画像も補正できるのがポイントです。

ここでは、ステライメージ8を使ってセルフフラット処理を行う手順を解説します。

空の状態が刻々と変化する光害地でも、セルフフラットなら靄や迷光などの再現不可能なムラをきれいに補正することができる。

空の状態が刻々と変化する光害地でも、セルフフラットなら靄や迷光などの再現不可能なムラをきれいに補正することができる。

STEP0 セルフフラットの手順概要

コンポジット済みの画像から背景ムラを抽出してフラットフレームを作成し、コンポジット済みの画像に対してフラット補正処理を行います。背景ムラ抽出の都合上、天体の最も暗い部分が背景の最も明るい部分より明るいことが、処理がうまくいく条件です。

STEP1 画像を開く

まずコンポジット済みの画像を用意し、ステライメージで開きます。

操作:

  • 自動コンポジット直後の場合:
    コンポジットパネル右下の「画像ウィンドウ」ボタン(3つのうち真ん中)をクリックして、コンポジット済みの画像を「詳細編集モード」で表示
  • 保存してある画像を開く場合(上のサンプル画像を使う場合はこちら):
    • ステライメージ8を「詳細編集モード」で起動
    • コンポジット済みの画像を下記のいずれかの方法で開く
      • 「ファイル」→「開く」から選択
      • 画像ファイルをウィンドウ内にドラッグ&ドロップ

STEP2 星を消す

画像を複製して、もう1枚をセルフフラットフレームに加工していきます。

まず、「スターシャープ」処理を行って写った星を消します。「スターシャープ」は、ぼやけた恒星像を小さくしてシャープにするための機能です。

操作:

  1. 「画像」→「コピー」で画像を複製
  2. 「フィルタ」→「スターシャープ」を表示
  3. 下記のように設定して「OK」ボタンで処理を実行
    • 星像の大きさ:0.8
    • しきい値:1%
    • 半径:5ピクセル
    • 「星の芯を残す」:OFF
「スターシャープ」で星を消す

「スターシャープ」で星を消す

1回で星が消えない場合は、同じ処理を2〜3回繰り返します。ほとんどの星がなくなって星雲と背景ムラだけになれば、多少は星が残っていても大丈夫です。

「スターシャープ」処理を繰り返す

「スターシャープ」処理を繰り返す

STEP3 星雲部分を白く飛ばす

星雲の境界部分の明るさ値を取得します。

操作:

  1. 「階調」→「レベル調整」を表示
  2. 「設定」→「ツールバー」→「編集バー」の表示をON
  3. 編集バーの「ピクセル情報」ボタン(右列下から4番め)をクリック
    (カーソルがピクセル取得ツールに変わる)
  4. 星雲の外側にピクセル取得ツールを合わせ、「レベル調整」ダイアログのヒストグラム・マーク(緑色の縦線)の位置を覚えておく
ピクセル情報を読み取る

ピクセル情報を読み取る

取得した値をもとに、星雲が白く飛んで背景のムラやゴミが浮き上がるようレベル調整します。

操作:

  1. 「レベル調整」ダイアログのハイライトカーソル(▲)を、4.のヒストグラム・マークあたりの位置まで動かす
    星雲が完全に白く飛び、背景のムラやゴミなどは見えている状態にする
  2. 「最小値」を「0」にする。画像全体が真っ白になる
ハイライトカーソルを動かす

ハイライトカーソルを動かして天体が白く飛んだ状態にする。

「レベル範囲外切り詰め」を実行し、白く飛んだ天体部分の情報を切り捨てます。

操作:

  1. 「階調」→「レベル範囲外切り詰め」を実行

作成したセルフフラットフレームをFITS形式で保存します。

操作:

  1. 「ファイル」→「名前を付けて保存」
  2. 「画像ファイルの保存」ダイアログで「ファイルの種類」に「FITSファイル」を選択し、保存場所とファイル名を設定して「保存」をクリック
  3. 「FITS保存設定」ダイアログで下記のように選択して「OK」をクリック
    • データ形式:実数
    • ビット数:32ビット
「レベル範囲外切り詰め」を実行

「レベル範囲外切り詰め」を実行

STEP4 フラット補正

STEP3で作った画像をフラットフレームとして使い、STEP1の段階の画像(コンポジット済み画像)に対してフラット補正を行います。

操作:

  1. コンポジット済み画像ウィンドウをクリックして、手前に表示(アクティブ状態に)する
  2. 「画像」→「ダーク/フラット補正」を開く
  3. 「フラット補正」をONにして、「フラット補正画像ファイル」のドロップダウンリストからフラットフレーム画像を選択(フラットフレーム画像をすでに閉じた場合は「参照」から選択)
  4. 「OK」クリックでフラット補正を実行

もしフラット補正後に星雲のすそのあたりが消えてしまうようであれば、STEP3に戻り、レベル調整のハイライトを前回より少しシャドウ側に寄せて「レベル範囲外切り詰め」を行います。

フラット補正がうまくいくと、明るさや色のムラ、ゴミなどがきれいに消えます。

フラット補正前

フラット補正前

フラット補正後

フラット補正後

STEP5 フラット補正後の最終調整

以上で「セルフフラット補正」ができました。この後は、多少強めの画像処理を行ってもきれいに仕上げることができます。

操作:

  1. 「ファイル」→「画像調整パネル」を開く
  2. プレビューを見ながら各スライダーを動かして調整する
    参照:デジタル一眼 天体写真入門「画像処理の流れ 2.画像調整」

フラット補正前

元の画像

フラット補正後

フラット補正処理後

最終調整後

最終調整を施してできあがり