アルマ望遠鏡で観測、大質量連星の誕生現場

このエントリーをはてなブックマークに追加
生まれたての2つの重い恒星が互いに回り合う様子がアルマ望遠鏡で観測された。先に生まれた星の周りのガス円盤が分裂し、そこからもう一つの星が生まれたことが示され、重い星どうしの連星系の誕生に迫る重要な成果となった。

【2019年4月2日 アルマ望遠鏡理化学研究所

太陽質量の8倍以上の質量を持つ大質量星は、そのほとんどが兄弟星を伴う連星系として存在することが近年の研究からわかっている。大質量星は、高密度のガス雲が重力的に収縮することで誕生すると考えられているが、そのガス雲収縮の中でどのようにして連星系が誕生するのかについては、2つのシナリオが提案されている。

一つは、先に生まれた主星の周りのガス円盤が分裂することで伴星が誕生するというもの。もう一つは、高密度なガス雲が収縮する過程で2つの大質量星がそれぞれ独立に誕生するというものだ。2つのうち正しいのはどちらか。その謎を解くには、形成段階にある大質量連星系の性質を詳しく観測する必要がある。

理化学研究所のYichen Zhangさんたちの国際共同研究グループはアルマ望遠鏡を用いて、とも座の方向約5500光年彼方の大質量星形成領域「IRAS 07299-1651」の観測を行い、この領域の中心に2つの原始星が存在することをつきとめた。星の間隔は約180天文単位(270億km、太陽から海王星の約6倍)しか離れておらず、これまで知られているなかで最も近接した大質量連星系である。また、それぞれの原始星の周囲のガスから水素再結合線が観測されたことで、2つの原始星は既に強力な紫外線を放出するまでに成長していることもわかった。

大質量連星系「IRAS 07299-1651」と周囲のガス雲の分布
大質量連星系「IRAS 07299-1651」と周囲のガス雲の分布(緑、擬似カラー)。囲み内は2つの若い大質量原始星を表しており、主星(青)が地球に近づく方向に、伴星(赤)が地球から遠ざかる方向に運動していることを示す(提供:理化学研究所、ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Zhang et al.)

さらに、2つの原始星の距離と視線方向の速度差から、2つの星の合計質量は連星系の公転軌道が円形なら太陽質量の18倍以上、楕円軌道だとしても太陽質量の9倍以上であると見積もられたほか、伴星の質量が最大で主星の約8割で、公転周期は600年以下であることもわかった。形成段階にある大質量連星系のダイナミクスを明らかにした初の研究成果となる。

2つの星の質量が同程度であることや、ほかに小質量星が同時に誕生していないことなどから、この連星系では、先に生まれた主星に付随するガス円盤が分裂することで伴星が誕生した可能性が高いと結論づけられた。

しかし、連星公転面と主星円盤面にズレが存在するため、単純な円盤分裂シナリオではつじつまが合わない点もある。円盤分裂シナリオでは公転軌道が円形に近い連星系が誕生すると示唆されているため、将来観測によってその形状がわかれば、この連星系の起源を決定づけられる可能性がある。異なる波長での観測も行えば、それぞれの原始星へのガス降着の様子もより詳しく調べることができるだろう。

今回の観測では連星系を取り囲む大規模な降着流(約1000~10000天文単位)と、それぞれの原始星を取り囲むガス円盤(約10天文単位)を含む多重スケールにわたる大質量連星系の誕生の様子も明らかになっている。大規模なガス降着流、連星系、ガス円盤を伴う各原始星の性質といった多重構造が一般的なのか、それとも特殊なのかを明らかにするためにも、今後より多くの高解像度観測が待たれる。

大質量連星系の現在と過去の姿の概念図
観測された連星系の姿(左)と、伴星誕生時の姿(右)。円盤分裂による伴星誕生のシナリオと観測結果が一致している (提供:理化学研究所)