金星下層雲の巨大筋状構造をシミュレーションで再現、形成メカニズムを解明

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金星探査機「あかつき」による観測から、金星を覆う雲の中に巨大な筋状構造が発見された。大規模な数値シミュレーションでこの構造の形成メカニズムが解き明かされた。

【2019年1月15日 神戸大学JAXA宇宙科学研究所

金星探査機「あかつき」の赤外線観測画像から、金星の高度50km付近の下層雲に巨大な筋状構造が見つかった。南北半球それぞれに約1万km近くにわたって斜めに延びるこの構造は、「あかつき」のIR2カメラによって初めて明らかになったもので、研究チームでは「惑星規模筋状構造」と呼ぶことにした。このような惑星規模の巨大な筋状構造は地球では観測された例がなく、金星特有の現象と考えられている。

「「あかつき」がとらえた金星下層雲(左)と、シミュレーションによる再現画像(右)。黄色い破線が「惑星規模筋状構造」
「あかつき」がとらえた金星下層雲(左)と、シミュレーションによる再現画像(右)。黄色い破線が「惑星規模筋状構造」(提供:Nature Communications誌掲載論文の図を一部修正。CC BY 4.0。以下同)

神戸大学大学院理学研究科の樫村博基さんたちの研究グループでは、金星大気の数値シミュレーションのための計算プログラム「AFES-Venus」を開発し、海洋研究開発機構のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」を駆使して高い空間解像度での数値シミュレーションを行った。その結果、この惑星規模筋状構造を再現し、さらに形成メカニズムの解明にも成功した。

筋状構造形成の鍵となるのは、意外にも日本の日々の天気とも関わりの深い「寒帯ジェット気流」だ。

地球の中高緯度帯では、南北の大きな温度差を解消しようとする大規模な流れ(傾圧不安定)が、温帯低気圧や移動性高気圧、そして寒帯ジェット気流を形成している。これと同様のメカニズムが金星大気の雲層でも働いており、高緯度帯にジェット気流が形成されうる。

一方、低緯度帯では、大規模な流れの分布や惑星の自転効果を復元力とする大気波動(ロスビー波)によって、赤道から緯度60度付近にまたがる巨大な渦が生じる(下画像左)。そこにジェット気流が加わることで、渦が傾き、引き伸ばされ、北風と南風がぶつかる収束帯が筋状に形成される。収束帯で行き場を失った南北風は強い下降流となり、雲の薄い領域からなる惑星規模筋状構造を作り出していると考えられる(画像右)。

惑星規模筋状構造の形成メカニズム
惑星規模筋状構造の形成メカニズム。低緯度帯で発生するロスビー波は、赤道をまたいだ雲層下部に存在する波動(赤道ケルビン波)と結合しており、これにより南北対称性が維持されていることもわかった。金星は西向きに自転しているため、ジェット気流も西向きに吹く

今回の結果は、「あかつき」による金星探査と「地球シミュレータ」による高解像度で大規模なシミュレーションの連携による世界初の成果であり、金星気象学が新たな段階に達したことを示すものだ。今後も、「あかつき」の観測とシミュレーション解析の連携で、金星気象の謎が解き明かされることが期待される。