小マゼラン雲の緩やかな死

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天の川銀河の伴銀河「小マゼラン雲」から水素ガスが急速に失われていることが電波観測で明らかとなった。この銀河ではやがて星形成が完全に止まるかもしれない。

【2018年11月5日 オーストラリア国立大学

オーストラリア国立大学のNaomi McClure-Griffithsさんたちの研究チームは、銀河の進化を調べるプロジェクトの一環で、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の電波望遠鏡アレイ「オーストラリアSKAパスファインダー(ASKAP)」を使い、天の川銀河の伴銀河である「小マゼラン雲」を観測した。

ASKAP
電波望遠鏡アレイ「オーストラリアSKAパスファインダー(ASKAP)」のパラボラアンテナ群。背景の夜空に広がっているのは天の川(提供:CSIRO/Alex Cherney)

小マゼラン雲は地球から約18万光年の距離にあり、質量は太陽の数十億倍と見積もられている。直径も質量も天の川銀河の10分の1以下という矮小銀河だ。小マゼラン雲のそばには、やはり天の川銀河の伴銀河で小マゼラン雲より少し大きな「大マゼラン雲」がある。

今回の観測で得られた電波画像は、これまでの小マゼラン雲の電波画像に比べて3倍以上も分解能(細かい部分を見分ける能力)が向上しており、小マゼラン雲が周囲の環境と相互作用する様子をより精密に調べることができた。

その結果、小マゼラン雲の中で星形成が活発な棒構造の部分から銀河の外に向かって、700光年以上の距離にわたって中性水素ガスが流れ出していることが明らかになった。小マゼラン雲から流出している水素ガスの量は約1000万太陽質量で、銀河内に存在する水素ガスの3%に当たる。観測から推測される水素ガスの流出量は、1年当たり太陽質量の0.2〜1倍で、これは小マゼラン雲で1年間に生まれる星の質量よりも10倍近く多い。矮小銀河から失われる質量を観測に基づいて見積もることができたのはこれが初めてだ。

「今回私たちは、小マゼラン雲から水素ガスが激しく流出している現象を観測することができました。小マゼラン雲がすべてのガスを失うと、最終的には新たな星形成が止まることが示唆されます。星形成が止まった銀河は、徐々に暗くなってやがて消え去っていきます。これは、ガスをすべて失った銀河が迎える緩やかな死とも言えます。小マゼラン雲は、最期には天の川銀河に飲み込まれるもしれません」(McClure-Griffithsさん)。

小マゼラン雲の水素ガス
ASKAPの観測で得られた小マゼラン雲の水素ガスの電波画像(提供:Naomi McClure-Griffiths et al., CSIRO's ASKAP telescope)

天の川銀河の周囲には、大小マゼラン雲から長く伸びる「マゼラニック・ストリーム」という水素ガスの雲が存在していることが知られている。今回の観測データは、マゼラニック・ストリームのガスの供給源が小マゼラン雲である可能性を示している点でも重要な結果だ。

「ASKAPは小マゼラン雲全体を一度の観測でカバーし、この銀河の水素ガスの様子を、これまでにないほど詳細にとらえることができました。ASKAPでは、天の川銀河と大小マゼラン雲の最新の水素ガス分布を得る観測に取りかかっています。これによって、これらの矮小銀河がどのようにして天の川銀河と合体していくのかを理解でき、他の銀河の進化についても深く知ることができるでしょう」(CSIRO David McConnellさん)。

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