土星からエンケラドスに伝わるプラズマの音
【2018年7月17日 NASA JPL】
NASAの土星探査機「カッシーニ」は、2016年11月から2017年9月の運用終了まで行われた最後のミッション「グランド・フィナーレ」で、土星本体と環の間を通過する軌道を22周飛行した。その際に得られたデータから、土星の本体から環や衛星エンケラドスに向かってプラズマ波が伝播しており、驚くほど強力でダイナミックな相互作用が起こっていることが示された。
固体・液体・気体に続く物質の「第四の状態」と呼ばれるプラズマは、原子が陽イオンと電子に分かれた電離ガスである。プラズマには空気や水と同じように波を生み出してエネルギーを運ぶ性質があるが、カッシーニが検出したのは、このようなプラズマの波動(プラズマ波)で発生する「オーロラヒス(auroral hiss)」と呼ばれる電磁波だ。土星とエンケラドスをつなぐ磁力線に沿ってプラズマ波が伝わり、2つの天体の間をエネルギーが行ったり来たりしていることが初めて明らかになった。
「エンケラドスはいわば土星の周りを回る小さな発電機で、エネルギーの発生源であることがわかっています。土星はこのエンケラドスに対して、数十万km離れた磁力線の回路を通してプラズマ波を送り出すという反応をしていることがわかりました」(米・アイオワ大学 Ali Sulaimanさん)。
土星とエンケラドスの想像図(提供:NASA/JPL-Caltech)
エンケラドスは土星の磁場の中にあり、水蒸気を放出するなど活発な地質活動を行っている。また、エンケラドスから放出された物質は電離してプラズマとなり、土星の周囲を満たしている。さらに、同じような相互作用は土星の本体と環の間でも起こっていて、カッシーニは土星と環の間で生じているプラズマ波も検出しており、こちらも非常にダイナミックな現象だ。こういった相互作用は、月と地球の間では見られないものである。
また、研究チームでは、カッシーニが2017年9月2日に検出した強いプラズマ波のデータを音に変換して公開している。今回検出された電磁波の周波数が人間の耳に聞こえる音の周波数とちょうど同じ範囲にあるため、ラジオが電波を音声に変えるのと同じようにしてプラズマ波を音として聴けるようにしたものだ。「ヒュー」という風切り音のように聞こえる。
カッシーニが検出した電磁波を変換して作られた音声の紹介動画「Sounds of Saturn: Hear Radio Emissions of the Planet and Its Moon Enceladus」。16分間のプラズマ波の変化を28.5秒の音声に縮めている(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Iowa)
〈参照〉
- NASA JPL:Listen: Sound of Electromagnetic Energy Moving Between Saturn, Enceladus
- Geophysical Research Letters:論文
〈関連リンク〉
- Cassini
- アストロアーツ:
- 【特集】環のある星 土星(2018年)
- 天体写真ギャラリー:2018年 土星
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