●絶叫!モザンビーク海峡(その2)


 

広すぎっ!モロンベ市

 空港で待ちかまえていたのは、ドライバーのムッシュ・パラキ。どちらかというと、マレー系ではなく大陸系の顔を持つ長身の若者だ。サングラスをかけていて、身につけているモノがヤンキーぽいが、目は妙にかわいい。このムッシュ・パラキの乗ってきた古そうなセダンで、とりあえず市内の中心部に向かう。気温も湿度もアンタナナリボよりかなり高い感じだ。

 空港から市街地までは、泥沼のような干潟の中を通るガレガレの一本道をそろりそろりと走り、ムッシュ・パラキのボスのいるらしいホテルに到着。ここで、4輪駆動のピックアップトラックに乗り換えることになった。こちらは、かなり新しい車だ。荷物を荷台に積み込むと、ムッシュ・パラキの弟が荷物番ということで荷台に乗り込んで、小生たちに同行することになった。

 ところで、先ほどから市内とか、市街地とかという言葉を使っているが、実際にはそういう言葉から連想される光景とは、おそらくそうとうかけ離れていると思っていただきたい。つまり、市内とは民家が何件か立ち並んでいるかたまりが点在するだけなのだ。日本的センスでたとえるなら・・、うーん、ちょっとした漁村という感じである。それでも、モロンベ市というらしい。ホテルも市内に何件かあるというので、とりあえず視察に向かうことになった。

 ホテルというか、バンガローというか、モーテルというか、掘っ建て小屋というか・・、という雰囲気たっぷりの建物ばかり。もちろん、そんな宿でも日食の前夜と当日はすでに2年も前から満室という。その中の一軒で、「ホテル・バオバブ」という古いコテージが並ぶ宿で昼食をいただくことになった。準備ができるまで、GPSで緯度経度を計測して、皆既継続時間をエクリプスナビゲータで計算してみる。やはり事前の予想通り、2分27秒台というところだった。

 さて、昼食のメニューは焼き鳥ライス。そう、マダガスカルは、日本と同じ米食の文化を持つ国なのだ。とはいえ、いわゆる日本風のジャポニカ米とは異なるインディカ系のお米のようで、炊きあがりのご飯はポロポロのパラパラだ。これにトマトを刻んだソースをかけて食すのが現地風らしい。もちろん、チキンの丸焼きも美味で、久しぶりのご飯にA巻さんも小生も満足した。

 ところが、すでに大きな問題が小生たちに立ちはだかっていたのだった。モロンベ市の市内にあると聞いていた今宵の宿で、日食ツアーでも利用するホテルまで、なんと3時間近くもかかるというのだ。「だって、市内なんだろう?」というA巻さんの問いに「ええ、市内です」とムッシュ・ジョゼが軽く答える。「3時間はあまりに遠いですよねぇ」とA巻さんと顔を見合わせる。

 どうやら、日本人とマダガスカル人の感覚は大きく異なるとしかいいようがない。ドライバーのムッシュ・パラキ兄に地図を見せると、「ここだ」と指す。なんと、空港から直線で40キロメートルも南だ。それでも、たった40キロメートルだ。なぜに、それほど時間がかかるのか?

 答えは簡単だった。小生たちを乗せたピックアップトラックは、モロンベの市街地を出たとたん、ノロノロとゆっくりと進み始めたのだ。道が悪くて、まともに走行できないのである。岩場ガレガレ状態なのだった。「うわー、だめですよ、こんなの。ツアーのお客さん乗せられないよ」と、A巻さんは困った顔になっている。小生もこの状態が3時間も続いたら疲れるだろうな、と思い始めた頃、今度は砂地の道に出て、ピックアップトラックは軽快に走り始めた。「あらら・・」とあっけにとられるまもなく、今度はジャングル系の生い茂った森のような道を突き進む。と思えば、急にノロノロと速度を落として小川を渡る。しばらくして、ムッシュ・パラキ兄が前方を指さして「バオバブ」といった。

バオバブ

バオバブの木

 いや、でかい、というのが第一印象だ。樹齢250年ほどというバオバブの木が突然現れたのである。アンタナナリボからの道中、飛行機から地上を眺めると、所々にそれらしき巨大な木が生えていたのが見えたのだが、間近に見るとその大きさがはっきりわかる。なんとも不思議な姿をした植物だ。ちなみに、バオバブという木はマダガスカルだけでも何種類かあるといい、地域によってその姿が違うらしい。

 さて、さらに景色の変化に富んだ道を進む。途中、フラミンゴの群れが遠くに見えたり、小さな集落で大きなカニを買うなど、道はひどいがなかなか楽しい旅である。「いやいや、はじめはどうなるかと思っていたけど、けっこうおもしろいんじゃない?」と、A巻さん。確かに、そう滅多に体験できるというものではないだろう。そして、極めつけは、バオバブの木の大群落。草原のような景色の中のあちこちに、巨大なバオバブが生えているのだ。うーん、圧巻。そんな体験をしつつ、宿に到着した。

かに

地元の娘さんからカニ(夕食用)を買う。

バオバブ群生

バオバブの大群落

 ホテルの名前は「ラグナ・ブルー」。海岸に沿って、各部屋独立したコテージが立ち並ぶ。テラス付きのコテージには、ベッドと小さな机にいす、それからシャワーとトイレ付きだ。バスタブはないが、シャワーからはきちんと温水が出る。かなりシンプルだが、清潔で不満はない。電気も自家発電だが、各コテージに電源コンセントがある。コンセントはやはりCタイプ(たぶん)。ちなみに電話はオーナーの衛星携帯だ。 一休みした後、GPSで計ってエクリプスナビゲータで計算。なんと、ここは皆既帯の南限界線上と判明する。

コテージ外観

ラグナブルー・コテージ外観

コテージ室内

ラグナブルー・コテージ室内

コテージトイレシャワー

ラグナブルー・コテージ シャワー&トイレ

 ところで、ここのオーナーはイタリア人。セニョール・パウルとセニョーラ・リタのご夫婦が経営している。実は、このラグナ・ブルーは建設中で、この時点で宿泊できるコテージは15棟ほど。レセプションやレストランも建築中だったが、今後もどんどんとコテージを増やして、一大マリンレジャー基地にするのだと、セニョール・パウルはいう。とりあえず、オーナーに挨拶をして、本日の行動予定終了。オーナーの作るイタリアンで夕食を済ませ、就寝・・のはずだったのだが・・。

 

すんげー暗いぞ、マダガスカル

 空はほぼ快晴。日が暮れて、南西の空にみなみじゅうじが沈んでいくのを見ていたら、もうだめだ。かなり旅の疲れがたまっているのに、小さな双眼鏡で星空散歩。そういえば、ジンバブエもトランジットの南アフリカもホテルが街中で星空を眺めるチャンスがぜんぜんなかったのである。やっぱり、南に来たら南天星座を見上げて帰りたいものである。

星空

さそりが頭から水平線に沈む

 沈みゆく南十字から見当を付けて双眼鏡で、南極星(?)のはちぶんぎ座σ星を探してみる。「お、あるある」見覚えのある四辺形とそれに連なる2つの星がすぐに見付かった。そこから、南天の星座をいろいろとたどる。さいだん、ふうちょう、みずへび、じょうぎ、はえ・・。それにしても暗い。異常に空が暗い。微光星が異様に多い。西の空の黄道光が、さそり座あたりの銀河に突き刺さるように見えるほどだ。これほど暗い空は、そう滅多に見られないだろう。なにせ、半径300キロメートルくらいは明かりがないはず。暗くて当たり前なのだ。こんないい空で、寝られるものか、と結局朝まで星野を撮ったりしながら過ごしてしまった。

マゼラン雲

南天といえば、大小マゼラン雲?

何もない海岸が観測場所だ

 下見旅7日目は、ほぼ休養日。なにせ、移動、下見、移動と立て続けで旅してきたので、A巻さんと相談して、「今日は打ち合わせだけ」と決めた。A巻さん、ムッシュ・ジョゼとムッシュ・テオと四人で簡単に打ち合わせでおしまい。

打ち合わせ

下見メンバーで地図を広げて打ち合わせ

 さらに下見旅8日目、ムッシュ・パラキ兄の運転で再びモロンベの市街地に戻り、実際の観測場所となる海岸へ向かう。このモロンベの海岸は、皆既帯中心線からやや南になる。本当は、さらに北に行きたいところだが、道が途絶え、雨期の後は毎年地形が変わるということで、断念せざるを得なかった。とはいえ、マダガスカルの海岸線で実際に行くことができ、もっとも皆既中心線に近い場所といえるだろう。

 実際にGPSで計測し、エクリプスナビゲータで計算してみると、2分27秒台。海岸線の皆既中心線では2分43秒なので、まずまずだろう。太陽が皆既となる方向を見ると、沖にいくつか珊瑚礁のようなものがあるが、視界を遮るものは何もない。この水平線の上でコロナが輝くのだ。地面は砂浜だが、望遠鏡やカメラの三脚の設置には特に問題はないだろう。

海岸

モロンベ海岸・観測場所

 実は、ヨーロッパから大挙してやってくる観測者たちが、モロンベの海岸に大テントサイトを作ってキャンプするらしく、仮設トイレや日陰テントの設営、飲食物の物販もされるらしい。日食当日だけ、そのテント村にライフラインのお世話になることも可能だというので、便乗させてもらえるように手配した。これで、宿と観測場所の下見終了。モロンベにもう一泊して、アンタナナリボに戻ることになった。

 こうして、すべての日程をこなし、小生とA巻さんの二人は帰国の途に付いたのである。

 

本編・おわり

 

 

▲ akira-kの日食下見旅日記

▲ 2001年6月21日 アフリカ南部皆既日食


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