Part-2 統計的な雲量分布


 皆既月食の起こる1月10日の夜は、日本のどこが晴れやすいのでしょうか? 天気の統計の中から雲量のデータをあたってみました。

 

● 皆既月食の始まる時間 − 1月10日3時の平均雲量

 下の図は、月食が始まる時間よりすこし前の1月10日3時の平均雲量を示したものです。雲量とは全天の何割が雲に覆われているかを示す指数のこと。まったく雲がないときが0、半分雲で覆われているときが5、全天雲のときが10となります。この雲量を各地点ごとに40年分平均した結果を地図上にプロットしてみました。暖色ほど雲が少なく、寒色ほど雲が多いことを示しています。
 図からは、日本の寂寥山脈を挟んで平均雲量が大きく異なっていることがわかります。太平洋側では雲量が少なく、日本海側では雲量が多いのです。太平洋側はその多くの地点が平均雲量5.0以下、つまり空の半分以上に雲がない状態となっています。平均雲量がもっとも少ないのは前橋で3.0。以下、甲府・水戸・御前崎・小名浜・室戸岬・潮岬・宇都宮・銚子・高知・尾鷲と続き、宮古までが平均雲量4.0以下に入ります。逆に日本海側は総じて平均雲量7以上となっており、空のほとんどが雲に覆われる平均雲量9.0以上の地点も9地点あります。日本海側で月食を見ることは、今回は厳しそうです。

1月10日3時の平均雲量

● 1月10日21時の平均雲量
 皆既月食が始まる少し前の時刻にあたる1月10日3時の平均雲量を、40年間の統計データより求めた。統計期間は1961〜2000年。地点はその中で20年以上の観測がある気象官署82地点(南鳥島を除く)を選んだ。データは気象業務支援センター発行の気象庁年報より(2000年1月は気象庁月報より)。
 冬型の気圧配置に大きく支配される時期だけに、太平洋側と日本海側で平均雲量のコントラストが大きい。伊良湖の平均雲量は2.8であり、上にあげた地点よりもさらに雲量が少ないが、統計年数が14年間と少ないので今回は図から除外した。
 雲量の観測は3時間ごとに目視で行われるが、夜間の観測は行われない地点も多い。月食の最中にあたる午前6時にも雲量の観測は行われるが、観測地点数が62地点まで減ってしまうので、今回は午前3時のデータを用いた。

 

● 月食が楽しめる夜空になる確率 → 雲量が5以下になる確率

 といはいえ、平均雲量といってもピンと来ないかもしません。たとえば、平均雲量5と言っても10年間ずっと雲量5が続くのか、雲量0と雲量10が5年づつやってくるのかは判断がつきません。
 そこで、皆既月食の経過が楽しめるくらいに空が晴れる確率を求めてみました。月食を楽しむとなると空の半分以上は晴れていてほしいものです。半分以上雲があると、雲の往来が気になって月食を楽しむというわけにはいかなくなってくるためです。
 下の図は、皆既月食が始まる時間に空の半分以上が晴れている確率、つまり雲量が5以下となる確率を求めたものです。この場合も、さきほどの平均雲量とほぼ同じ傾向で、月食が楽しめる夜空になる確率も太平洋側で高く、日本海側で低くなっています。太平洋側ではおおむね50%以上の確率で月食が楽しめる空になっています。その確率が高い地点も先ほどと同様で、前橋が73%で最も高く、小名浜・水戸・甲府・御前崎が70%と続きます。
 それに対し、日本海側では確率は30%以下の地点が多く、北海道から北陸にかけての日本海側では、確率10%以下となってしまう地点も10地点あります。また、南西諸島も40%以下の地点が多く、月食が始まる時間の空はあまりよくないことが多いようです。

1月10日3時に雲量が5以下になる確率

● 月食が楽しめる夜空になる確率 → 雲量が5以下になる確率(%)
 上図と同じデータを用いて、月食が始まる少し前にあたる時間(午前3時)に雲量が5以下になる確率を求めてみた。この場合も先程と結果は同様で、太平洋側で確率が高く日本海側で確率が低い。よくみると関東地方では東京や横浜よりも前橋や宇都宮のほうが確率が高くなっている。単純に太平洋側ならよいというだけでなく、寂寥山脈のすぐ風下にあたるところをねらったほうがよさそうだ。

 

● 観測地点数の多い朝9時の雲量で細かい地域差をみる → 9時に雲量が5以下になる確率

 太陽が昇った後の朝9時には、すべての気象官署で雲量の観測が行われます。そこで、より細かい雲の傾向をみるために、朝9時の雲量が5以下になる地点を調べてみました。下の図を見ると、全体としての傾向は先ほどと同様ですが、地点数が増えただけあってより細かな傾向が見えてきています。
 確率が高い地点も河口湖の78%を筆頭に、秩父・甲府・静岡・石廊崎までが70%以上で、以下千葉・御前崎・水戸・熊谷・延岡・前橋・宇都宮・小名浜・浜松・高知・勝浦・諏訪と続き、三島がちょうど60%となります。
 この結果からは、太平洋側の中でも北関東から中部地方の南部にかけてが、月食の日の朝9時にもっとも天気がよいことがわかります。また、四国以西では、延岡(67%)や高知(63%)で天気がよい反面、宇和島(20%)や宿毛(25%)や剣山(29%)では天気が悪く、同じ太平洋側でも場所によって雲量が大きく異なることがわかります。太平洋側で天気が悪い地点は、山岳地域や季節風の風上側に高い山がないところが多いようです。
 また日本海側では、単純に海岸に近いところほど天気が悪い傾向がみられます。日本海側ほどではありませんが、南西諸島も天気がよくないようです。

1月10日9時に雲量が5以下になる確率

● 観測地点が多い朝9時に雲量が5以下になる確率
 同じデータを用いて、今度は朝9時の雲量が5以下になる確率を求めてみた。午前3時に20年以上雲量を観測しているのは地点は82地点だが、朝9時なら153地点まで増加する(南鳥島を除く)。このため、朝9時のデータで雲量の細かい分布傾向を調べてみた。ただし、午前3時と朝9時では雲量の傾向が異なることも考えられるので、この点には注意する必要がある。
 図からは、同じ太平洋側でもとくに北関東から中部地方の南部に晴れやすい地点が集中していることがわかる。また、四国と九州の太平洋側では、晴れやすい地点と曇りやすい地点が混在していることもわかる。

 

● 今回の月食は見るなら太平洋側で

 以上の3つの図から統計的にハッキリ言えることは、日本海側で今回の月食をみることはかなり厳しいということです。日本海側では月食の起こる時間に月食を楽しめる程度の空になる確率は、多くの地点で20〜30%以下であると予想され、3年から5年に一度程度しか月食を楽しめないことになります。逆に太平洋側の地域では、おおむね晴れることが多いようです。今回の月食は冬の寒い時期の中、一日でもっとも寒い時間に起こることもありますので、自宅で月食をご覧になれる方が多いのではないかと思いますが、必ず月食を見たい方は太平洋側で見ることをおすすめしたいと思います。

 

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