下部マントルと同じ組成の鉱物「ブリッジマナイト」を隕石から発見

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2012年にインドに落下したカトール隕石から、地球の下部マントルと同じ化学組成を持つ超高圧鉱物のブリッジマナイトが発見された。

【2021年10月4日 広島大学

地球内部の深さ660kmでは約24万気圧もの圧力がかかっており、これより深い下部マントルにある鉱物は原子が詰め込まれた結晶配列をとると考えられる。その下部マントルの体積の8割近くを占めると予測されている鉱物が「ブリッジマナイト」だ。地下深くにあるため、人類は天然の地球産ブリッジマナイトを手にすることはできないが、隕石の中からは発見されている。

地球内部の模式図
地球内部の模式図(提供:広島大学リリース、以下同)

ブリッジマナイトは、(Mg、Fe)SiO3(マグネシウムや鉄のケイ酸塩鉱物)がペロブスカイト構造と呼ばれる稠密な結晶構造を成した鉱物で、1990年代後半にテンハム隕石とAcfer 040隕石から相次いで見つかっている。ブリッジマナイトという鉱物名が与えられたのは2014年と比較的最近だ。

地底では堆積物の重みによる圧力がブリッジマナイトを作るのに対して、隕石中のブリッジマナイトは宇宙空間で小惑星同士が衝突したときの圧力で形成されたのだと考えられる。地球の下部マントルのブリッジマナイトにはアルミニウムが含まれると予想されているが、これまでに隕石から発見されたものにはアルミニウムが含まれず、鉄とマグネシウムの割合も下部マントルのものとは異なっていた。

これに対して、2012年5月22日にインド・マハラシュトラ州・ナグプール地区カトール市に落下したカトール隕石には、地球の下部マントルと同じ化学組成のブリッジマナイトが含まれていることが、インド工科大学のSujoy Ghoshさんたちの研究チームによって明らかにされた。

カトール隕石の電子顕微鏡写真
カトール隕石の電子顕微鏡写真。黄色の破線部が隕石が溶けた部分を示す

カトール隕石には宇宙空間での衝突により岩石が溶けた跡である「衝撃溶融脈」が見られる。研究チームはこの衝撃溶融脈を様々な装置で解析し、透過型電子顕微鏡によって大きさ1μm以下のブリッジマナイトを発見した。また、X線分光装置でブリッジマナイトの化学組成を調べたところ、鉄とマグネシウムの割合が下部マントルのブリッジマナイトで予想される割合と同じこと、さらにアルミニウムも下部マントルと同程度に含まれていることがわかった。

ブリッジマナイトの電子顕微鏡写真
カトール隕石から見つかったブリッジマナイト(赤の点線部分)の電子顕微鏡写真

46億年前に誕生した地球の表面は、天体の衝突による熱で溶けていた(マグマオーシャン)。そのマグマが冷える過程で、鉄やニッケルなどの重い元素が地球中心部へ沈み金属核となり、ケイ素やアルミニウムなどの軽い元素が浮き上がったマグマの海でブリッジマナイトが作られたと考えられる。現在の地球が誕生したプロセスを理解する上で、カトール隕石に含まれるブリッジマナイトは鍵となるかもしれない。