磁場と重力、大質量星の誕生に深く関わるのはどちらか
【2021年8月6日 アルマ望遠鏡】
星間空間に広がるガスや塵が集まることで、恒星は誕生する。このとき、ガスを収縮させて中心へ送るなどの作用を引き起こすのは重力だけではない。磁場もまた、若い星やそれを取り巻くガスと塵の円盤の回転に影響を与えるなどして星形成に関わっているのではないかと議論されている。とりわけ、質量が大きな恒星の誕生には磁場が不可欠だと長らく考えられていたが、その理論を照明するにも反証するにも、観測的証拠が乏しかった。
国立天文台のPatricio Sanhuezaさんたちの国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使ってこの問題に取り組んだ。研究チームは、へびつかい座の方向7600光年の距離にある「IRAS 18089-1732」と呼ばれる大質量星形成領域を観測し、渦巻き状の磁場構造を発見した。
観測から見積もられた磁場の強さは、そこに集まっていた物質の重力に比べて弱かった。「このような極端な環境では、重力がガスの形態を決めエネルギー収支を支配することができるのです」(Sanhuezaさん)。さらに研究チームは、原始星が重力によってガスを引き付けることで、原始星周囲の磁力線がねじれていることも発見した。
(左)大質量星形成領域IRAS 18089-1732の磁場の広がり。色は電波の強度、線は偏光観測から明らかにした磁力線の形状を表す。(右)塵から放射された1.2mm波長の電波強度と磁場の向き。画像クリックで拡大表示(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Sanhueza et al.)
同じように大質量星形成領域の磁場を観測した先行研究では、星間雲の大きな塊が分裂したりそこからさらに収縮したりするのに磁場が重要な役割を果たしていると報告されていた。このときの研究は0.01~0.1パーセク(1パーセクは約3.26光年)のスケールで対象をとらえていたのに対して、Sanhuezaさんたちはさらに細かなスケールで星形成領域の磁場を調べていた。研究チームは、磁場や重力が大質量星形成領域に関わる度合いは、注目するスケールや、星形成の進み具合によって変わるのではないかと結論づけている。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:アルマ望遠鏡が観測した大質量星形成における磁力と重力の相互作用
- The Astrophysical Journal Letters:Gravity-driven Magnetic Field at ~1000 au Scales in High-mass Star Formation 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2023/05/26 木星大気の長期変動は「ねじれ振動」に起因する可能性
- 2023/05/15 小マゼラン雲にホットコアを初検出
- 2023/03/02 星を大きく育てる、円盤の渦巻き
- 2023/02/10 星のゆりかごを揺さぶる赤ちゃん星の産声
- 2023/01/30 磁場が支えていた大質量星への物質供給
- 2023/01/06 ほ座パルサー星雲のX線偏光は、かに星雲の2倍以上
- 2022/12/21 JWST、生まれたての星を取り巻く有機分子をとらえる
- 2022/11/02 2年ぶりの増光を見せた変光星おおいぬ座Z
- 2022/09/02 昔の環境が残る⼩マゼラン雲で、星の産声を初検出
- 2022/08/29 宇宙最初の星は「ひとりっ子」で誕生する
- 2022/06/24 巨大な赤ちゃん星を囲む円盤にかき乱された跡
- 2022/04/04 天の川銀河の腕と腕の間にも星の材料
- 2022/03/24 太陽型星では大気の加熱メカニズムは普遍的
- 2022/03/08 ガスが集まって大質量星になるまでの過程
- 2022/02/09 液体金属の分離が、火星磁場の運命を決めた
- 2021/12/03 天の川銀河の最果てに、有機物とともに生まれた星を発見
- 2021/09/22 「富岳」、太陽の自転周期を再現することに成功
- 2021/08/31 鉄が多い岩石惑星の磁場は長持ちしない
- 2021/07/29 磁場で超高速回転する原始星ジェット
- 2021/07/16 木星の明滅するX線オーロラのメカニズム