新星発見日本一の大ベテラン、椛島冨士夫さん引退宣言
【2020年1月20日 星ナビ編集部】
報告:早水勉さん(佐賀市星空学習館)
佐賀県みやき町在住の椛島さんは、1939年生まれ。天文に興味を持ったきっかけは1948年5月9日の礼文島日食だった。当時小学4年生だった椛島少年は、月と太陽の視直径と距離の比率を夢中になって計算したという。得意の数学はほとんど独学で、中学生の時にはすでに微積分を勉強していた。1963年から、後に日本のアマチュアとして初の小惑星発見を成し遂げる浦田武さん(2012年没)と友情を温め、小惑星会議にも発足時から参加した。
定年を迎えるころ、地元のアマチュア天文家・西山浩一さん(福岡県久留米市)から新天体捜索活動の相談を受け、西山さんの私設天文台(佐賀県みやき町)建設に協力した。二人が本格的に捜索を開始したのは、70歳目前の2007年8月のこと。1年続けても成果がなければ止めるつもりが、翌月にはM33に新星を発見。主力は、口径40cmベーカーシュミット望遠鏡と口径51cmリッチークレチアン望遠鏡で、ベーカーシュミットでは広写野を活かした天の川銀河内の新星を、リッチークレチアンでは倍率を活かしたM31やM33銀河内の新星をターゲットにする。
椛島さんと私設天文台「みやきアルゲンテウス」。アルゲンテウス(Argenteus)はラテン語で「銀」を表し、シルバー世代をもじったジョークだ。天体力学の大家、古川麒一郎さん(2016年没)が命名された。それぞれのドームに口径40cm F3.3ベーカーシュミットと、口径51cm F6.7リッチークレチアン望遠鏡が格納されている
こうして初発見から12年の間で、コンビによる発見数は「天の川銀河内の新星:27個」「天の川銀河外の新星:91個(M31内新星81個、M33内新星10個)」「超新星:2個」にまでのぼった。10個/年もの超ハイペースだ。なかでも天の川銀河内の新星の発見数27個は日本一、世界でも第2位の大偉業である。互いに単独での発見もあるが、すべての報告を「西山・椛島」で登録するという信頼関係が長続きの秘訣でもある。
コンビを組んできた西山さんは「椛島さんからはたくさんのことを教えてもらいました。ご苦労さま、ゆっくり過ごしてください」と話した。その西山さんは82歳だが、今後も90歳になるまでは捜索するという。現在120の発見数を150まで伸ばすのが当面の目標だ。いずれは彗星発見も、と意欲は健在である。
椛島さんは現在奥さまと二人暮らしで二人の娘さんがいる。家族には自身の業績について何も語らないが、80歳で捜索を引退することは、ずいぶん以前から決めていたことで、運転免許証も返納したという。淡々と計画通りに人生設計を全うしているだけと言うが、その姿には充実感が漂っていた。
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