プラネタリウム「剣の山」、制作の舞台裏

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全天周映像作品「剣の山」への思いや制作裏話を、作品監督の上坂浩光さんに語っていただきました。2月には都内で上映&トークショーも開催されます。

【2018年1月19日 星ナビ編集部

文:上坂浩光さん((有)ライブ代表、作品監督)

「星ナビ」2018年1月号掲載記事)

日本は4つのプレートが交差する、世界的に見ても稀な場所に位置しています。そのため日本全体として造山活動が活発です。北アルプスの立山黒部の山々も激しい隆起を続けていて、年々数mmから1cmずつ高くなっているのをご存知でしょうか。僕たちの時間尺度では感じ得ないこれらの活動は、地殻が動くプレート運動によるものであり、そのプレートを動かすマントル対流のエネルギーは、地球が誕生したときの熱にまで遡ることになります。そしてそのプレート運動こそが、生命を生み出す環境を、地球上に作ったのです。山を知ることは自分たちのいのちが、宇宙と繋がっていることを示す証でもある……先日公開となった全天周映像作品『剣(けん)の山』は、そんなテーマで作られました。

「剣の山」のワンシーン
幼い頃、山岳救助隊だった父親を山で亡くしている主人公の剣(けん)。そんな彼を深く理解し、暖かく包み込む仲間たち。彼は山という大きな自然から何を掴みとるのか……(「剣の山」より、(c) 黒部市 (c) ライブ)

「いのちと宇宙」というテーマは『HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-や『Eternal Return -いのちを継ぐもの-』、そして『HORIZON -宇宙の果てにあるもの-』など、僕の作ってきた作品と共通のものですが、『剣の山』は、青春群像を描くという新しい試みにチャレンジしています。青春映画でもあり科学映画でもあるというこの作品は、あるようでなかったジャンルかもしれません。

少年と山の物語『剣の山』のストーリーを思いついたとき、オールロケで撮影を行うことは必然となりました。山こそがこの作品の真の主人公だからです。しかし実際の撮影は困難を極めました。2500m級の山岳地帯、機材をそこに運び上げるだけでもたいへんです。気温0度という、かなり過酷な環境の中での撮影もありました。しかもクランクイン初日から雨。限られたスケジュールの中での撮影なのに、山に上がってからも丸2日間、雨で宿に閉じ込められました。

しかしそんな苦労の末、作品を撮り終えて感じたのはやっぱり山って魅力的だったということです。宇宙に興味を持つ人に山好きの人が多いというのは偶然ではない気がします。宇宙の時間スケールと、造山活動の時間スケールは、どちらも同じレベルのもの。静止しているように見える山も、実は常に変化していて、僕らはそのほんの一瞬だけ山と触れているにすぎません。宇宙も同じですよね。そしてその2つは密接に関わっている…というより連続した世界です。星間ガスから星が生まれ、惑星が生まれ、プレート運動で陸地や山ができる。すべてが連続し、自分たちはその中に存在している。山の頂から見下ろすとそんな感覚が自然に湧いてきました。僕はすっかり山が好きになりました。今度は個人的に山に登ってみようと思っています。

撮影シーン
撮影は、作品の舞台となる立山黒部で行った。悪天候で撮影が中断することもしばしば。出演者やクルーたちもがんばってくれた


〈剣の山 立山黒部ジオパークを舞台に描く、少年と山の物語〉

  • 監督・脚本:上坂浩光
  • 監修:黒部市吉田科学館(久保貴志)
  • 制作・著作:黒部市/有限会社ライブ
  • 黒部市吉田科学館にて上映中。2018年4月27日(金)まで
    詳細 http://kysm.or.jp/

■ トークイベント情報

2月3日(土)足立区西新井「ギャラクシティ」2F まるちたいけんドーム(プラネタリウム) にて、「剣の山」上映&トークイベントを開催。

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