別々の軌道への投入に成功、「しきさい」と「つばめ」

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12月23日、気候変動観測衛星「しきさい」と超低高度衛星技術試験機「つばめ」を搭載したH-IIAロケット37号機が打ち上げられた。

【2017年12月25日 JAXA三菱重工業株式会社

12月23日(土)10時26分22秒、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)と超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)を搭載したH-IIAロケット37号機(H-IIA・F37)が種子島宇宙センターから打ち上げられた。

気候変動観測衛星「しきさい」と超低高度衛星技術試験機「つばめ」を搭載したH-IIAロケット37号機の打ち上げ動画(提供:JAXA)

今回の打ち上げでは、衛星2基がそれぞれ異なる軌道高度に投入されている。ロケットは第2段エンジンを何度も停止・再点火しながら地球を1周し、打ち上げから約16分13秒後、高度800kmの太陽同期準回帰軌道上に「しきさい」をまず分離した。

「しきさい」分離後、ロケットは慣性飛行を続け、57分39秒後から7秒間にわたり第2段エンジンの第2回目の燃焼を実施した。さらに再び慣性飛行の後、約1時間45分39秒後から71秒間、第2段エンジンの第3回目の燃焼を実施し、その69秒後に近地点高度約450km、遠地点高度約643kmの楕円軌道上で「つばめ」を分離した。

その後、両衛星の太陽電池パドルの電力発生や地上との通信、姿勢制御が正常であることが確認され、予定していた機器の立ち上げを含めた一連の作業が完了し、軌道上で衛星を維持できる状態が確立されたと発表された。今後は初期機能確認運用期間へ移行し、「しきさい」「つばめ」共に約3か月間で衛星搭載機器の機能確認等を実施する予定となっている。


「しきさい」は、地球の環境変動を長期間にわたってグローバルに観測することを目的とした観測衛星である。地上からの光を紫外線から可視光線、赤外線まで19の領域に分けて、陸域から大気、海洋、雪氷まで様々な対象を観測することができる。

「しきさい」の形状や搭載パーツのイラスト
「しきさい」の形状や搭載パーツのイラスト(提供:JAXA、以下同)


また、実験機である「つばめ」は、人工衛星にとって未開拓の軌道領域である180~300kmの超低高度において、JAXAが培ってきたイオンエンジン技術を利用して、超低高度衛星を開発するための技術の実証を行うことを目的とした衛星だ。

多くの地球観測衛星が周回する高度600km~800kmの軌道には、地上の1兆分の1程度の微量な大気が存在しており、この軌道を周回する人工衛星は常にこの微量な大気の抵抗を受け続けるため除々に高度が低下する。高度を戻すには燃料を消費してガスジェットを噴射する必要があり、燃料が尽きてしまうと軌道高度を維持することができず衛星の寿命となってしまう。

「つばめ」が飛行する超低高度軌道は、さらに地表に近く大気が濃いため、衛星の運用には向かない軌道とされてきた。大気抵抗が少ない「つばめ」は燃料の使用効率が高いイオンエンジンを利用して、超低高度で長期間にわたり軌道を維持するための技術を実証し、超低高度衛星の実用化を目指している。

従来の衛星の高度と「つばめ」が飛行する超低高度との比較
従来の衛星と「つばめ」の軌道の高度と大気密度の比較

超低高度軌道のメリットは、地上に近い分、地球をより高い解像度で観測することができることだ。これまでの地球観測衛星の観測センサーと同じ解像度を半分以下サイズのセンサーで実現できる可能性があり、センサーの価格が大幅削減され衛星自体のコスト低減にもつながることが期待される。