金星の大気循環再現システムを開発、「あかつき」データの利活用が可能に

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金星の大気の流れをコンピューターシミュレーションする大循環モデルに、観測データを融合させるシステムが世界で初めて開発された。「あかつき」による観測データの利活用で金星の謎の解明が進むと期待される。

【2017年8月30日 慶應義塾大学

金星は地球と大きさや平均密度が似ており「地球の双子星」などと呼ばれることもあるが、金星大気の運動や気温分布は地球のものと大きく異なっている。そのうえ、金星は硫酸の厚い層によって覆われているため、地球や火星に比べて大気内部の運動についてはほとんどわかっていない。金星の自転速度の60倍も速く循環する「大気スーパーローテーション」と呼ばれる現象のメカニズムは解明されておらず、惑星気象学における最大の謎の一つとなっている。

金星
探査機「マゼラン」のレーダー観測に基づきコンピュータシミュレーションで作成された金星全球像(提供:NASA/JPL)

流体力学や熱力学を基に大気の流れや温度・湿度の変化を計算する「大気大循環モデル」を用いた数値シミュレーションでは大気の運動の正確な再現はできておらず、観測データをモデルに利用した研究はこれまでなかった。

慶應義塾大学の杉本憲彦さんたちの研究チームは金星大気運動の解明を目指して、金星大気大循環モデル「AFES-Venus」を開発しており、東風分布の再現や金星大気における傾圧不安定波の存在とその重要性の指摘、周極低温域の生成メカニズム解明など、世界初となる様々な研究成果を挙げている。

同研究チームは、地球や火星の大気で用いられている観測データの同化手法である「アンサンブルデータ同化」と呼ばれる手法をAFES-Venusに導入し、世界初となる金星大気のデータ同化システムを開発した。

システムの有効性を検証するため、数値シミュレーションで得られた擬似観測データとヨーロッパ宇宙機関の探査機「ビーナスエクスプレス」の観測データを用いた同化実験を行ったところ、時空間的に限られた観測データを用いているにもかかわらず、観測データに含まれる惑星規模の大気波動(熱潮汐波)が大気大循環モデルのなかで正しく再現されることが確かめられた。データ同化システムが期待どおりに動作し、金星大気の流れを調べるのに探査機の観測データを利用したデータ同化が有用であることを示している。

本研究により、時空間的に限りのある観測データと不確実性を伴う数値モデルの両方を合わせて最大限に活用する手法であるデータ同化が、金星大気の運動を解明する新たな糸口となることが実証された。今後、金星探査機「あかつき」によって得られた高解像度かつ高頻度の観測データを本システムで同化することにより 、大気スーパーローテーションの成因の解明など金星大気内部の運動の理解が革新的に進むと期待される。

「あかつき」が撮影した金星
「あかつき」が撮影した金星(提供:JAXA/ISAS)