乱流の中で生まれた、離れた連星系

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アルマ望遠鏡の観測から、連星をなす若い2つの星の自転軸が互いに傾いていることが明らかにされた。離れた連星系の形成に乱流が大きな役割を果たしていることを強く示唆する結果である。

【2017年7月5日 アルマ望遠鏡

宇宙に存在する星の半数以上は連星系をなしている。連星系を構成する星同士の間隔は様々であり、間隔が狭い連星の誕生については、最初の星の誕生時に周囲にできるガス円盤の中で次の星が生まれている様子が過去のアルマ望遠鏡による観測でとらえられていた(参照:「接近した若い3連星の形成が進む現場」)。

一方、間隔が広い連星系がどのようにしてできるのかについて確定的な証拠は得られておらず、もともと間隔が狭かった連星系が何百万年もかけて次第に広がっていくとする説や、母体となった大きなガス雲が乱流によってちぎれ、それぞれの中で星が生まれるとする説が考えられてきた。

韓国・キョンヒ大学のJeong-Eun Leeさん、国立天文台の立松健一さんたちの研究チームは、間隔が広い連星系を調べるため、おうし座の方向約450光年の距離にある連星系「IRAS 04191+1523」をアルマ望遠鏡で観測した。2つの星の間隔は860天文単位(太陽から海王星の距離の約30倍)と大きく離れており、星の年齢は50万歳よりもずっと若いとみられていることから、この観測対象は離れた連星系の生まれたばかりの姿を調べるうえで理想的な天体である。

原始連星系「IRAS 04191+1523」
非常に若い原始連星系「IRAS 04191+1523」の擬似カラー画像。(白)アルマ望遠鏡がとらえた2つの星の周りの円盤、(黄)それらを覆う濃いガスの雲、(赤)「ハーシェル」宇宙望遠鏡が遠赤外線でとらえた塵の分布(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Lee et al., ESA/Herschel/PACS)

双子星のそれぞれを取り囲むガス円盤に含まれる一酸化炭素分子が放射する電波を詳しく解析し、ガス円盤の回転方向を調べたところ、ガス円盤の向きがそろっておらず、互いに77度も傾いていることがわかった。

連星系がガス円盤の分裂によってできた場合、ガスの回転の勢いがそのままそれぞれの星に引き継がれて2つの星の自転軸の向きがそろい、その後で星同士の間隔が徐々に大きくなっていっても自転軸の向きはそれほど変化しないと考えられている。IRAS 04191+1523の星(ガス円盤)の自転軸が傾いているという観測結果は、「近い位置にあった2つの星の間隔が次第に大きくなったことで離れた連星系が作られた」という説を明確に否定し、連星形成に乱流が大きな役割を果たしていることを強く示唆するものである。

原始連星系「IRAS 04191+1523」の想像図
IRAS 04191+1523の想像図。自転軸の向きが互い違いになっている(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

「今回の発見でとくに面白いのは、2つの星の質量が太陽の10分の1以下と非常に小さいことです。離れた連星系、とくにこうした低質量の星からなる離れた連星系の形成過程はこれまで謎でしたが、より重い普通の星と同じように乱流に満ちたガスの分裂で生まれる可能性が高いということが示されました。この連星系は、間隔の狭い連星が互いの重力によって広がったと考えるには若すぎます。ですから、乱流が大きなガス雲を引きちぎったことで生まれた双子のガス塊のそれぞれで星が生まれた、と考えるのが自然なのです」(Leeさん)。

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