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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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142(2017年1〜2月)

2017年6月5日発売「星ナビ」2017年7月号に掲載

アポロ型小惑星2017 BK(=JAX504)の発見

年が明けた2017年1月5日にJAXAの柳沢俊史氏から「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。昨年末は、検出物体の確認、追跡観測など大変お世話になりました。地球近傍を高速で移動する物体の検出技術を鋭意開発中ですので、今後も何かとお世話になることがあるかと思いますが、どうかよろしく、お願いいたします。なるべくこちらで確認し、本当のイベントのみ報告できるようにいたします」という今後が楽しみな年賀メイルが届きます。

新年に入った1月9日夜から1月11日の夜までは、月光がまばゆいほどの夜でした(満月は1月12日)。その頃から約1週間の間、この冬一番の寒気が訪れます。当地でも、1月14日には気温が-1.2℃まで下がり、雪がちらほらと舞いました。1月10日朝、07時05分に山形の板垣公一氏より「天文電報中央局(CBAT)の未確認天体確認ページ(TOCP)に入れません。掲載をよろしくお願いします」というメイルが届きます。そこには「2017年1月10日06時24分にへび座を撮影した捜索画像上に9.0等の新星状天体(PN)を見つけました。くわしくはのちほど連絡します」という報告が書かれてありました。私の方でもTOCPにログインしようとしましたが、板垣氏がいうとおり入れません。そこで07時19分にダン(グリーン)にこの発見とTOCPの動作がおかしいことを連絡しました。しかし、TOCPの状況は09時になっても回復していません。そのとき板垣氏から「ごめんなさい。あのPNは、NEOWISE彗星(2016 U1)でした」という連絡があります。『そうですか。そういえばその付近を動いていたし、光度も合ってますね。TOCPが不調でラッキーでした』と答えました。

そんな出来事があってから1週間後の1月18日朝は、この冬初めて車のフロントガラスに氷が張る寒さでした。その明け方04時48分に柳沢氏から、黒崎裕久氏との共同捜索で発見した地球接近天体(NEO)の発見報告が届きます。この天体は、入笠にある18cm f/2.8望遠鏡を使用して、1月17日23時50分にやまねこ座を撮影した捜索画像上に発見された高速移動天体で、発見光度は17.5等級でした。前回(先月号)に続き『また明るい天体だ。こんな明るい特異小惑星がまだ残っているのか……』と思いながら報告を見ると、1月18日03時50分まで4時間の間に行われた4個の観測がありました。これらの観測から天体は、東北東に316′の日々運動で動いていました。『1日に5.3°か。けっこう速いな……』というのが第一印象でした。まず、人工天体ではないことを確かめるため、人工衛星の軌道決定を行いましたが、軌道解はありません。従って今度は自然の天体のようでした。

その日の朝、06時32分になって、美星スペースガードセンターからその夜(1月17/18日)の観測群が届きます。その中に同センターの西山広太・浅見敦夫両氏によって、同夜18日05時08分から05時27分の間に行われたこの天体の8個の追跡観測がありました。彼らの光度は18.9等でした。なお、これらの観測は07時27分に小惑星センター(MPC)に送付しておきました。07時59分には、浅見氏から柳沢・黒崎氏に送られたメイルが転送されて届きます。そこには「公表はまだですが、NEOの発見おめでとうございます。美星では空の状況が悪かったのですが、JAX504を追尾モードで観測できました」という報告とその概略軌道が知らされていました。

この日(1月18日)は15時に自宅を離れオフィスに立ち寄った後、南あわじまで買い物に出かけ、最後にイオンで食料品を買って、19時40分にオフィスに戻ってきました。まずコーヒーを入れて、それを飲みながら、発見後、ここまでの約1日間の観測から軌道を決定し、結果をEMESで仲間に知らせました。そこには、この天体の『発見情報』と『……。捜索に使用しているシステムは「地球近傍を高速移動する天体を捉える」ために開発されたソフトとのことです。同グループでは、12月末以来このシステムを使用して、すでに3個の天体を見つけていました。ただこれらは、月軌道に達する特異な軌道を動く人工天体でした(先月号参照)。そのため、同じような動きをする地球接近天体(NEO)が、今後も再び捉えられることが予想されます。同システムでのこの発見は、今後にこの種の天体の発見に希望が持てるものとなります。

今回、新発見された天体JAX504は、発見同夜に美星を始め世界各地で観測され、q=0.97au、a=1.90au、e=0.49の軌道を持つアポロ型小惑星でした。軌道はまだ不確かですが、下の位置予報のとおり、小惑星は1月21日頃に地球に0.04auまで接近します。この小惑星は、発見頃に衝位置近くを動いていました。今後、次第に暗くなりながら2月上旬まで観測できるでしょう。小惑星の標準光度からその直径は55mほどと推測されます。なお、日本国内でのアポロ型天体の発見は、2007年に美星で発見された2007 YZ(=A01102)以来、10年ぶりのことです。偶然のことですが、このたび、それ以前に浦田武氏によって発見された1998 YM4(=UR302)が、この1月のMPCで番号登録され(480822)となりました』というコメントをつけておきました。

その編集をしながら、メイルホルダーをながめると、20時12分に東京の佐藤英貴氏から、スペインにある43cm f/6.8望遠鏡で1月19日09時半頃に行ったこの天体の3個の観測が届いていることに気づきます。氏の光度は18.1等でした。佐藤氏の追跡観測をEMESに追加しなければいけないと思いながら、それを忘れて20時43分に仲間に送ってしまいました。

翌1月19日には、今期一番の寒さの中、本誌5月号でお話した「琉球アサガオ」が小さな花を咲かせました。その日の夕方18時50分になって佐藤氏から米国メイヒル近郊にある25cm f/3.4望遠鏡で1月19日15時過ぎに行った5個の観測が届きます。氏からは、深夜1月20日01時47分に「あけましておめでとうございます。2014年には72Dを狙うと宣言し、幸運にも捉えることができました。今年も何か目標を持ちたいところですが、初回帰の彗星も少なく、検出すら難しい年なのが残念です。昨年はD/1978 R1を11月3日と12月18日に予報位置の周囲4°四方を捜索しましたが、18.5等より明るい未知の移動天体は見つかりませんでした。今回、本邦では久しぶりに発見されたNEOであるJAX504の2夜目の観測を行うことができました。高速移動天体に対しては、小口径であっても明るい筒を使うと、1枚あたりの露出時間がかけられるため写りがよく、発見に有利に働くのかもしれません。この天体の写真をお送りします」というメイルとともに画像が届きます。そこで03時21分に佐藤氏に『いつも観測をいただきありがとうございます。今年も無理せぬように観測に頑張ってください……。JAX504は、きれいに止まって写っていますね。iTelescopeはけっこう機材がいいのですね。EMESにも書いたとおり、入笠でのNEOの発見は期待できそうです。今後も、追跡をよろしく。なお、EMESにはあなたの名前を忘れました。編集中にあなたから観測が届いたことに気づいていたのですが、忘れてしまいました。すみません……』というお礼状を返しておきました。

この小惑星の発見は、1月20日05時13分に到着のMPEC B24(2017)で正式に公表されます。そこで、日本スペースガード協会発行のウェッブニュースNo.166でもこの発見を伝えておきました。1月21日00時03分のことです。なおこの小惑星は2017年1月31日(20.4等)まで観測され、今期での観測は終了しました。

わし座の矮新星

本誌2016年1月号でお話した「苦労して探してきたススキ」ですが、このときまでに2回の秋をガーデンテラス(中庭)で過ごしました。最初の2015年の秋は元気(活発)でしたが、2年目の秋は、同じススキの群落に育っているススキに比べ、あまり元気ではありません。『なぜかなぁ…』と考えると、春と秋に実家の庭に入っている植木屋は、必ずススキを根元から断裁して株しか残していません。そのため『もったいないけど、茎を切らなければいけないのか……』と思い、1月20日に株を残し、まだ青い葉も残っているすべての茎を断裁しました。

翌朝(1月21日)のことです。掛川の西村栄男氏から08時00分に発見報告を送付したことが知らされてきます。その西村氏のメイルは07時19分に届いていました。メイルには「新天体と思いますが」というサブジェクトがついていました。さらに氏からは、07時56分と07時59分に画像が送られてきていました。そこには「Canon EOS 5Dに200mm f/3.2望遠レンズを装着して、2017年1月21日05時34分にわし座を撮影した3枚の画像上に12.1等の新星状天体(PN)を見つけました。画像の極限等級は13.5等級です。1月18日に撮影した画像上には、この星は写っていません。青みがかっているようで、矮新星かもしれません。なお、MPCの小惑星チェッカーにつながりません。調べていただけますか」という発見報告がありました。小惑星を調べていないということなので、まずそれをチェックしましたが、既知の小惑星は近くにはいません。それを確かめた後、08時52分にこの発見をダンに送付しました。送付のあとカタログを調べると、ほとんど同じ位置に17.9等の恒星がありました。このことは、09時38分にダンに伝えておきました。

その日の昼間、13時47分に西村氏から「今朝の天体、さっそく処理いただきありがとうございました。中野さんには、いつもお手数をお掛けするばかりで申し訳ありません。感謝しております。今の時期、新彗星が出現しないかと期待をもって東の空低くを探していますがなかなか出ません。良い天気なので今夜も頑張ります。本当にありがとうございました」というメイルが届いていました。

翌朝、1月22日06時37分に香取の野口敏秀氏から観測が届きます。そこには「23cmシュミットカセグレインで1月22日05時47分に観測しました。光度は13.2等です。すでに矮新星との報告もありますが、デジタルスカイサーベイ(SDSS)にある青い星(矢印)でしょうか」という観測がありました。07時26分に野口氏に『お元気ですか(超新星の確認作業の報告がなくなったので疎遠になっている)。この前の報告は、TOCPがおかしくなっていて入力できませんでした。今日はどうかな……』と返事を返しておきました。氏の観測は07時31分にダンに送付しておきました。

さて、その後も寒い日が続き、1月24日にはここ洲本でも雪が積もりました。西村氏の報告から1週間後の1月29日19時17分になって、氏から「1週間前に処理していただいた天体ですが、下記のAAVSOに掲載されました。スペクトル等がどのようになっているのか情報はほとんど入ってきませんが、掲載されたことで自分は満足しています。中野さんにはお忙しいのに処理いただき本当にありがとうございました。いつも、いつもお手数をお掛けしていることに感謝しております。200mmの小さな機材ですが、急激に明るくなった彗星が写ってくれることを信じて、頑張りたいと思います。今後ともよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました」という情報が知らされてきました。そこで23時33分に氏には『いろんなところを見ているのですね。今後も頑張ってください』という返答を送っておきました。

45P/本田・ムルコス・パデュサコバ周期彗星

2017年2月に入って、この彗星の地球接近が近づいてきました。彗星は2016年11月に再観測され、光度は16等級でした。今回の回帰で、その発見以来、第13回目の出現を記録しました。

ところでこの彗星は、この回帰では2月11日に地球に0.083auまで接近します。この1000年間に地球に0.10au以内に接近したのは、1599年12月(接近距離0.069au)と1735年11月(同0.069au)と前回の回帰2011年8月15日の0.060auしかありません。なおこの接近(2011年)は、西暦1000年以後では、もっとも大きな接近でしたが、その接近時は北半球では観測できませんでした。今後50年間はこのように大きな接近がないためか、多くの人たちによって観測されました。

さてこの彗星は、その近日点近傍で急激に明るくなる彗星として知られています。今回の回帰では、近日点の通過わずか2か月前に再観測されたあと、急速に明るくなりました。さらに近日点通過前と後では、その光度変化が異なることが知られています。大まかにいうと、近日点通過前は急激に明るくなり、通過後はゆるやかに減光していく光度変化を示します。

彗星は再観測後、2016年12月には眼視観測も行われました。山口の吉本勝己氏は12月6日に10.9等、坂戸の相川礼仁氏は12月11日に9.3等、秩父の橋本秋恵氏は12月16日に8.8等、吉本氏も同日に8.3等、相川氏が12月17日に8.4等、同日にスペインのゴンザレス氏が8.5等、相川氏が18日に8.5等と観測しました。その後も、増光を続け、その眼視全光度をゴンザレス氏は12月26日に7.3等、28日に7.2等、29日に7.1等、30日に7.0等、31日に6.9等、1月3日に6.8等、6日に6.5等と観測しました。また、吉本氏は12月31日に6.9等、1月6日に6.6等、橋本氏は12月18日に8.9等、20日に8.5等、23日に8.3等、24日に8.2等、25日に7.8等、飛騨の大下信雄氏と相川氏は12月24日に7.8等と8.0等、埼玉の永井佳美氏も1月1日に7.2等と観測しています。この頃には彗星は6等級まで明るくなり、長い尾も出現し、今回の回帰では近日点通過のこの頃がもっとも活発な時期であったようです。

彗星は1月には夕方の低空を動いていましたが、2月には明け方の空に見えるようになり、いよいよ2月11日の地球接近を迎えることになります。明け方の空に回ったこの彗星は、2月1日に上尾の門田健一氏によって、東の低空に捉えられ、そのCCD全光度は8.1等と観測されました。門田氏は、翌日2月2日にも彗星を捉え、その光度を7.8等と観測しています。同じ日、山口の吉本勝己氏は眼視で彗星を捉え、その眼視全光度を7.6等と観測しました。同時に行われたCCD全光度は7.2等でした。さらにゴンザレス氏は2月8日に6.7等(コマ視直径22′)、16日に7.5等(同15′)とほぼ予報光度で観測されました。

地球接近後、彗星は、ゆっくりと減光しました。その後の彗星を門田氏は、4月13日に15.9等、新城の池村俊彦氏は4月28日に18.5等で捉えています。なお、次の近日点通過は2022年4月26日となります。

※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。