観測ロケット実験「CLASP」、太陽大気の複雑な構造や磁場の存在証拠を解明

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日米仏が共同実施した太陽観測ロケット実験「CLASP」により、太陽の彩層・遷移層が想像以上に複雑な構造をしていること、磁場の存在を示す紫外線偏光成分が見られることが突き止められた。

【2017年5月18日 国立天文台

太陽の表面温度は6000度だが、そこから数千kmほど上空の彩層は約1万度、遷移層は1万~100万度と高温で、さらに外側のコロナは100万度以上にも達する。こうした太陽大気中ではフレアと呼ばれる爆発やジェットなど活動的現象が起こっている。

太陽大気の構造
太陽大気の構造(提供:国立天文台)

高温で活動的な太陽大気が、なぜ低温な表面上空に存在できるのかは未解明である。太陽表面から大気へエネルギーを供給するメカニズムには、磁場が重要な働きをしていると考えられており、太陽表面での精密な磁場観測が数多く行われてきたが、加熱と活動の現場である彩層からコロナにおける磁場の観測は難しく、知見はいまだ限定的だ。

太陽大気中の磁場測定は、太陽のスペクトル線の「偏光」(光の振動の偏り具合)を観測することで行われる。太陽大気から放射される光の大部分は無偏光(光の振動方向に偏りがない状態)だが、磁場のような方向性を持つものが大気中にあると、放射されるスペクトル線の偏光状態が変化するのだ。

磁場の影響力が強くなる彩層上部~遷移層での磁場観測には、紫外線領域のスペクトル線の偏光分光観測が有用であると期待されているが、大気の影響のため波長の短い紫外線観測は地上からは難しい。そこで、日米仏の共同開発による観測ロケット実験「CLASP」によって、宇宙空間からの観測が行われた。CLASPは2015年9月にNASAの観測ロケットによって打ち上げられ、宇宙空間を飛翔する約5分間、波長121.6nmのライマンα線での偏光観測を実施した。

観測データを解析したところ、太陽が出すライマンα線が散乱偏光(原子による光の散乱過程で生じる偏光)していることが初めて明らかになった。偏光の強度は理論モデルの予想と大筋で合っていたが、空間的に細かいスケール(太陽半径の50~100分の1)で偏光の様子が変化していることなど、太陽の彩層・遷移層が想像していた以上に複雑な構造をしていることが示された。

さらに、太陽表面での磁束量が異なる領域について磁場の強さと散乱偏光のずれを調べたところ、彩層上部~遷移層に磁場が存在することを示す結果が得られた。

太陽彩層・遷移層から放射されたライマンα線の偏光スペクトル
(左)CLASPの撮像カメラによる太陽、(中~右)CLASP偏光分光装置が取得した、太陽彩層・遷移層から放射されたライマンα線の偏光スペクトル。(a)は強度スペクトル、(b)~(e)は2種類の直線偏光成分を表す(提供:国立天文台、JAXA、NASA/MSFC)

これらの結果は遷移層に確かに磁場が存在することを世界で初めて直接的に示すものであり、紫外線の偏光分光観測が太陽の磁場診断に有用であることを示す画期的な研究成果だ。「太陽彩層・遷移層磁場を示唆する偏光をとらえたことは、太陽の紫外線偏光分光観測という新たな扉が開かれ、これまで見えなかった太陽の姿が見えるようになることを意味します。重力波の検出で宇宙を見るための新たな扉が開かれ、電磁波を観測する従来の天文学では見えなかった現象が見えるようになったのと同様の重要な意義がある成果だと思います」(CLASP計画日本チーム 石川遼子さん)。