熊本地震から半年、天文台で「倒れにくい」新望遠鏡

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4月14日からの一連の熊本地震では、天文台や個人の観測所も被害を受けました。ボランティアで運営されている熊本県民天文台では、倒壊した望遠鏡に代わって倒れにくい新望遠鏡の導入を目標に、募金を呼びかけています。

【2016年10月6日 艶島敬昭さん(熊本県民天文台 台長)】

星ナビ2016年11月号掲載の「ニュースウオッチ」から一部を抜粋・編集したものです。

熊本県熊本市南部の丘陵地帯、塚原古墳群に囲まれるようにして建つ熊本県民天文台は一連の熊本地震で大きな被害を受けました。4月14日夜の前震で2階の観測室に設置してあった41cm反射ドイツ式赤道儀が大きく飛び跳ねて北側に倒れたのです。16日未明の本震ではロッカー類も全て倒れて1階ミーティング室のドアが開かなくなりました。建物はほぼ無傷で、望遠鏡も外見上は大きく破損したようには見えなかったのですが、1tもある重量物が「ジャンプして倒れた」のは衝撃的でした。

倒れた望遠鏡
望遠鏡は、設置してあった場所からただ横倒しになったのではなく、一度飛び上がってから倒れこんでいた。ケーブルはちぎれ、バランスウェイトが直撃した木製階段(写真右奥)は押し潰されて、ほとんど元の形をとどめていなかった

一度倒れた望遠鏡は、たとえ引き起こして補強・再設置しても強い地震があればまた倒れる可能性が高く、周囲に人がいれば大惨事になります。そこでこの機会に安全な公開の仕方を一から構築し直すことを決定しました。西村製作所と相談した結果、新しく導入する望遠鏡は経緯台式としました。リッチークレチアン式の光学系を採用することで、鏡筒長は1.2m以下と従来の約半分。カーボンハイブリッドの鏡筒はきわめて軽量(36kg)で、旧望遠鏡の5分の1の重さです。また、経緯儀式の架台はバランスウェイトも不要ですからとてもコンパクトになります。

大人なら観測室の床に立ったままで、子どもでも踏み台に上がれば大丈夫。天頂付近から地平線近くの低空の天体まで、移動したり体勢を変えたりすることなく観察できるためとても安心です。さらに直焦点撮影可能な接眼部回転装置も装備します。

しかし問題は資金集めです。熊本県民天文台は「熊本天文研究会」という天文同好会が募金を集め、建設資材や機材・書籍などたくさんの寄贈を受けて1982年5月に開設しました。以来34年間も無給のボランティアだけで運営してきました。地震による被害を修復するだけでなく、従来の枠を越え、新しい夢を持って一般公開に取り組んでいくために、私たちは広く全国に呼びかけて望遠鏡募金を始めることにしました。ウェブページで詳細をお知らせしています。

ぜひ、みなさま方のご協力をお願いします。

新しい望遠鏡の構想
新しい望遠鏡の構想。大気差補正を含む完全自動追尾の経緯台に、リッチークレチアン式光学系の鏡筒は重さ36kg、長さ約1.2mと軽量でコンパクト。床面に立ったままで観察ができる

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