おおぐま座SU型矮新星の増光メカニズムが明らかに

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【2013年8月20日 VSOLJニュース(303)

2時間以下の周期で回りあう連星で起こるスーパーアウトバースト(爆発的な増光現象)のメカニズムが、NASAの衛星「ケプラー」の観測から解明された。


VSOLJニュースより(303)

著者:大島誠人さん(京大理)

夜空に輝く星々のうちの半分以上は、2つ以上の星が回りあっている「連星」だといわれています。一口に連星といってもさまざまですが、その中にはほとんど星と星がくっつきあうような近距離で回りあっているものもあります。このような連星の場合、片方の星からもう一方の星へと物質が流れ込んで質量の移動が起こっていることも珍しくありません。

低温星からパートナーの白色矮星へと物質が流れ込んでいるような連星のことを「激変星」と呼んでいます。この名前は、このようなタイプの星に「激変」ととれるような大規模な変光を示す変光星が多く含まれるからです。

こうした天体では多くの場合、白色矮星のそばに流れ込んだ物質は直接白色矮星の表面に落ちるのではなく、白色矮星の周りに円盤を形成し、それを介して白色矮星に落ちます。このような円盤のことを降着円盤と呼んでいます。2つの星の間の間隔はひじょうに短く、太陽半径(約70万km)程度しか離れていません。軌道周期も短く、数時間程度です。

激変星の中で、数等級のアウトバーストを数日から数万日間隔で繰り返す天体のことを矮新星と呼んでいます。アウトバーストがまれな系についてはアウトバーストそれ自体がニュースになることも多く、しばしば取り上げられています。

これらの天体の増光メカニズムについては、以下のように考えられています。

降着円盤に降り積もった物質がある程度蓄積されると突然内側へと落ち込む量が増えてエネルギーが解放され、明るくなります。その後、内側に落ち込むことで物質の量が減少し、突然落ち込む量が減少して暗くなる、というサイクルを繰り返すのです。

この現象は熱的不安定性とよばれ、しばしばその様子は「ししおどし」に例えられます。あるいは、数学の世界の「カタストロフィー理論」を思い浮かべる方もおられるかもしれません。

軌道周期が2時間程度より短い矮新星では、通常のアウトバーストの他に「スーパーアウトバースト」と呼ばれる、通常より明るく長いアウトバーストが見られることが知られており、「おおぐま座SU型矮新星」というサブグループの名前で呼ばれています。

このスーパーアウトバーストの際には、(ポジティブ)スーパーハンプと呼ばれる周期的明るさの変動が見られることが知られています。この変動は公転周期より数%長い変動で、静穏時の激変星でしばしば見られる軌道周期に一致する変動、「オービタルハンプ」と区別するために「スーパーハンプ」(のちには、後で登場する「ネガティブスーパーハンプ」と区別するために「ポジティブスーパーハンプ」とも)と名づけられました。そして、スーパーアウトバーストの際にはスーパーハンプがつねに付随することが知られています。これはこの2つの現象に密接な関係があることを示唆しています。

このスーパーアウトバーストがどうして起こるのかについては、東京大学(当時)尾崎洋二氏の、熱潮汐不安定性によるとする説が代表的です。これは以下のようなシナリオです。

アウトバーストを繰り返すにつれて物質が円盤にたまっていき、円盤の外縁が3:1共鳴半径()に達すると、円盤の外縁部が伴星の潮汐力の影響を受け、真円から外れて離心楕円に変形した形になります。結果、円盤の外縁付近での粒子同士の摩擦が激しくなり、物質の落ち込みが通常のアウトバーストに比べて効率よく起こり、スーパーアウトバーストになる、というものです。

スーパーハンプは、この離心楕円に変形した円盤の近星点がゆっくりと公転と同方向に前進するために起こる現象で、離心楕円円盤と伴星の相対位置関係によって上に述べた摩擦の大きさが、会合周期であるスーパーハンプ周期で変化するために光度が変動するものである、と解釈されます。時計の短針と長針の会合が1時間より少し長くなるのと同様に、円盤の近星点と伴星の方向が同じほうを向く周期は、軌道周期より数%長くなります。これが公転周期より少し長い変動が見られるからくりになっている、というわけです。

他にも、質量輸送率が上昇するために通常より明るいスーパーアウトバーストが実現するとする説、熱的不安定性のみでノーマルアウトバーストとスーパーアウトバーストの両方を説明できるとする説などが提案されてきており、まだ完全には決着がついていませんでした。

これらの説では、それぞれアウトバーストのサイクルを通じての円盤の半径の変化やスーパーハンプの現れ方についての差があることがわかっていますので、これらの現象について観測的な結果が得られることが問題を解くカギになります。しかし、スーパーアウトバーストの時間発展はだいたい日のオーダーであることから、観測地点や観測頻度をうまくとらないと観測の空白が開いてしまい、なかなか決定的な証拠が見つかっていませんでした。

2009年の人工衛星ケプラーの打ち上げが、このような状態を大きく変えることになりました。この衛星はもともとは系外惑星探査のために打ち上げられたもので、空の一定の領域にある天体の光度変化を網羅的かつ継続的にモニタリングする、という目的を持っていましたが、むろん系外惑星候補天体だけでなく観測領域には既知の変光星を含む他の天体も数多く含まれていたのです。この衛星のデータを使い「スーパーフレア」を検出したというニュースは耳に新しいかもしれません。

このケプラー衛星が観測した範囲には、2つのおおぐま座SU型矮新星、こと座V344とはくちょう座V1504も含まれていました。そして、このケプラー衛星によって分間隔で得られたデータを解析してみたところ、はくちょう座V1504は観測期間の間の数百日にわたって「ネガティブスーパーハンプ」と呼ばれる現象が確認されることがわかりました。

このネガティブスーパーハンプは、円盤が連星の公転面からわずかに傾いて形成されることによって円盤が軌道方向とは逆向きにゆっくりと回転をすることによって引き起こされる変動で、軌道周期より数%短い周期を持つことがわかっています。幾何的にはちょうど通常のスーパーハンプとは反対の現象というわけです。なお、先ほどスーパーハンプをポジティブスーパーハンプと呼ぶことがあると述べたのはこのことによります。ポジティブ・ネガティブという名前は公転周期に対する周期の増加割合が正のものか負のものか、という点に由来します。これは、円盤の進行方向が「前向き」か「後ろ向きか」にも一致しています。

このネガティブスーパーハンプは現象としては80年代終わりごろから報告されてきましたが、多くは連続した光度曲線として検出できたものではなく周期解析をしてようやくシグナルの形でとらえられる、という程度のもので、本格的な大きな振幅を持つ変動が受かるのは2011年におおぐま座ERでの変動の発見を待たねばなりませんでした。そして、はくちょう座V1504でも目で見てもわかる程度のはっきりとしたネガティブスーパーハンプが見られたのです。

はくちょう座V1504でのネガティブスーパーハンプは、現れている期間中はスーパーアウトバースト中の一部を除きほぼ全位相にわたって存在していました。これが、円盤での現象を突き止めるための重大な手がかりとなったのです。というのも、ネガティブスーパーハンプの周期は、円盤の半径の変化に依存することが理論的に予測されているためです。この理論的な関係に基づいて、ネガティブスーパーハンプの周期変化を元にして半径変化を追うことが可能になるわけです。

周期変化を追うためにはなるべく観測間隔が短く、かつ連続した観測が必要ですが、ケプラーのデータはほぼとぎれなく観測されていますからそういう意味では実に好都合なデータです。こうしてケプラー衛星で得られたはくちょう座V1504のデータを元に円盤半径の変化を追ってみたところ、その結果は見事なまでにかつて熱潮汐不安定性による円盤半径の変化として予言されていたものに一致しました。この成果は尾崎氏と京都大学の加藤太一氏によってまとめられ、日本天文学会欧文報告の第65巻3号に掲載されました。

また、尾崎洋二氏によって提唱された潮汐不安定性に関する理論に関する論文がオンラインで閲覧可能ですので、この記事で興味を持った方がおられましたらぜひ目を通すことをおすすめします。

自然科学には、理論的な予想や枠組みと観測・実験的な検証の両方が不可欠です。また、その進歩のためにはお互いに成果をフィードバックさせるというサイクルが欠かせません。このたびの発見は、激変星において長らく提唱されてきた理論的な仮説について、観測の進歩によって得られた結果がその正しさを裏付けるという、まさに自然科学における見本のような成果が得られたといってよいでしょう。

注:「3:1共鳴半径」 ケプラー運動する粒子の公転周期が、連星の軌道周期と3:1の関係を持つ半径