「ハーシェル」がとらえた天の川銀河の最中央部

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【2013年5月9日 ヨーロッパ宇宙機関

先ごろ科学観測を終了した欧州の天文衛星「ハーシェル」による赤外線観測から、天の川銀河中心部の高温分子ガスの様子が詳細にとらえられた。超巨大質量ブラックホールの周囲を渦巻きながら、やがては吸い込まれていく運命にあるようだ。


銀河中心付近の様子

銀河とその中心部の様子(イラスト)。中心から数光年の範囲には希薄なガスと高温の塵があるが、一部のガスは周囲の恒星の紫外線や周辺のガス流の衝撃で加熱されている。クリックで拡大(提供:ESA-C. Carreau)

天の川銀河の中心には太陽400万個分もの超巨大質量ブラックホールがあり、その周辺の環境を探る観測や研究が行われている。銀河面の塵(ダスト)にさえぎられることなく観測が可能な赤外線天文衛星「ハーシェル」はこれまでに、天の川銀河の中心にシアン化水素、水蒸気、一酸化炭素といったバラエティに富んだ分子の存在をとらえており、こうした兆候からブラックホール周辺のガスの性質を知ることができる。

Javier Goicoecheaさん(スペイン宇宙生物学センター)さんらはハーシェルを用いて、天の川銀河の中心から数光年の範囲を詳細にとらえた。ガスの希薄な中心の空洞とその周囲の濃い分子ガスの円盤を区別して見ることができたのは、遠赤外線観測では初めてだ。

通常、星間ガスの温度はマイナス200度以下しかないが、中心部のガスは摂氏1000度以上もの高温になっていることがわかりGoicoecheaさんたちは大いに驚いた。近傍の大質量星の集まりから放射される紫外線だけではこれほどの温度は説明できず、ガス雲同士の衝突、あるいは恒星や原始星からの流出物で生じた、強く磁化されたガスの衝撃が原因のようだ。

中心部のガスはさらに内側に流れ込み、じきにブラックホールに吸い込まれるものと思われる。ブラックホールに落ち込む間際にガスは超高温に加熱され、高エネルギーのX線やガンマ線を放射する。

今はこうした放射は見られないが、ハーシェルが観測したガスよりもさらにブラックホール近傍にある小さなガス雲が今年中にも飲み込まれ、その放射がとらえられるかもしれないと注目されている(参照:2013/03/21ニュース「天の川銀河の中心ブラックホールに接近するガス雲が明るくなる可能性」)。

「天の川銀河の中心はとても複雑な領域ですが、今回のハーシェルの観測は、中心ブラックホール周囲の環境について知る重要なステップとなりました。銀河の進化プロセスへの理解も深めてくれることでしょう」(ハーシェル研究員のGöran Pilbrattさん)。