X線フレアが伝える、重いブラックホールの軽い食事

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【2013年4月5日 ヨーロッパ宇宙機関

4700万光年彼方の銀河中心にあるブラックホールが、低質量の天体を破壊し吸い込む際に放つX線フレアが検出された。褐色矮星か巨大惑星とみられるこうした軽い天体がブラックホールに飲み込まれる様子がとらえられたのは初めてのことだ。


重力で周囲の天体を飲み込むブラックホール

重力で周囲の天体(画像右下)を飲み込むブラックホールのようす(イラスト)。リリース元の動画の1コマ。クリックで拡大(提供:ESA)

ヨーロッパの天文衛星「インテグラル」と「XMMニュートン」が、おとめ座の方向4700万光年彼方にある銀河NGC 4845で起こったX線フレア(爆発的に強い放射)を検出した。この銀河には少なくとも過去2、30年の間に目立った活動は見られず、X線など高エネルギーでの放射がとらえられたのは初めてだ。

2011年1月のピーク時には放射強度が通常の数千倍にも達した。その後1年ほどかけてゆっくりと弱まっていく様子を、NASAの衛星「スウィフト」や国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟のX線監視装置「MAXI」が見守った。

ポーランド・ビアウィストク大学のMarek Nikolajukさんの分析によると、このフレアは銀河中心の巨大質量ブラックホールの近くにあった軽い天体が破壊され吸い込まれる際に発せられたことがわかった。飲み込まれた天体の質量は、もっとも重い場合で褐色矮星(質量不足で恒星になりそこねた天体)、もっとも軽い場合で巨大ガス惑星程度と見積もられている。近年の研究では、重力の作用で惑星系から追い出された“フリー”の惑星が多数存在することが示唆されており、これもそうした天体の1つなのかもしれない。

ブラックホールが恒星を飲み込んだと思われる現象はこれまでにも観測されているが、こうした軽い天体は今回が初めて(スイス・ジュネーブ天文台のRoland Walterさん)だという。

NGC 4845の中心に潜むブラックホールは、質量が太陽の30万倍と計算された。X線の強さの時間変化から見て、天体を破壊してからその破片が高温で輝きを放つまで、2、3か月かけてじっくりと味わっていたようだ。「ブラックホールが飲み込んだのは、天体の全質量の1割ほどにあたる外側部分だけ。高密度のコアは食べ残しの芯となってブラックホールの周囲に残された、そう考えています」(Walterさん)。

天の川銀河でも今年、このX線フレアと同様の現象が起こるのではと予測されている(参照:2013/3/21「天の川銀河の中心ブラックホールに接近するガス雲が明るくなる可能性」)。ただしこちらは褐色矮星や惑星ではなく、地球の数倍程度の質量を持つガス雲だ。

「インテグラル」研究員のChristoph Winklerさんによれば、近傍の銀河でこうした現象が見つかる可能性があるのは数年に1回程度という。飲み込まれる天体の種類や、ブラックホールのサイズの違いでどのようなことが起こるのか、今後の観測で明らかになるかもしれない。