爆発的に星が生まれる巨大銀河団

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【2012年8月20日 X線天文衛星チャンドラ

57億光年先の宇宙に、活発に星を生み出している大質量の銀河団が見つかった。


「ほうおう座銀河団」

「ほうおう座銀河団」のX線・紫外線・可視光線の合成画像。右はその中心銀河のイラスト。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/MIT/M.McDonald; UV: NASA/JPL-Caltech/M.McDonald; Optical: AURA/NOAO/CTIO/MIT/M.McDonald; Illustration: NASA/CXC/M.Weiss)

銀河団としては観測史上最速の猛烈な勢いで星を次々と生み出し、放射するX線は最も強力、かつ重量は最大級。この桁外れな「フェニックス(火の鳥)銀河団」はほうおう(=鳳凰・火の鳥)座の方向に位置することから名付けられているが、どうやらそれだけが理由ではないようだ。

「銀河団中心の銀河は数十億年もの間静穏を保ったままのものがほとんどですが、このほうおう座銀河団の中心では、いったん静かになってから再び爆発的な星生成が始まったようです。そんなところも、死から復活する『フェニックス』の名前にふさわしいと思います」(今回の研究リーダーMichael McDonaldさん)。

他の銀河団と同様、「フェニックス」には大量の高温ガスが存在する。銀河団内のすべての銀河を合わせたよりもさらに多くの普通の(暗黒物質でない)物質を含む膨大なもので、X線でのみ観測される。

こうした高温ガスが時とともに冷え、銀河団中心の銀河で星を次々と生み出すはずだと以前は考えられていたが、実際には銀河団の大部分は、過去数十億年の間にほとんど星を生み出していない。中心銀河にある大質量ブラックホールから放出されるエネルギーがガスの冷却を妨げ、爆発的な星生成が起こらないのだと見られる。

そういった例の1つが有名な「ペルセウス座銀河団」だ。中心銀河のブラックホールからの断続的で強力なジェットが巨大な空洞を作り出し、真ん中の「ド」の下の「シ♭」から57オクターヴ下という超低音の音波を発している(参照:2003/9/17「ブラックホールから発せられる宇宙一の重低音」)。

「こうした音波はどの銀河団でもあると思っていましたが、ほうおう座銀河団の場合は違いました。少なくとも、現在は音が止んでいる状態なのかもしれません。ブラックホールのジェットがガスの冷却を妨げるほど強力ではないということを示唆しています」(研究チームの1人、Ryan Foleyさん)。

そんなほうおう座銀河団の中心では、ペルセウス座銀河団の20倍もの勢いで星が生み出されている。銀河団の中心部としてはこれまで観測された中で最高のスピードで、それ以外の全宇宙の最高記録と比べても、その半分程度には達している。

驚異的なペースの星生成とガスの冷却で、この銀河団の銀河およびブラックホールはどんどん質量を増している。これは約1億年ぐらいしか続かない、つかの間の成長の時期なのだという。

ほうおう座銀河団、その中心銀河、そして中心の大質量ブラックホールは、同種の天体としては最重量級のものだ。このような稀なサイズゆえに、宇宙論や銀河進化論の研究の重要な研究対象となる。

「このような爆発的な星生成を見せる銀河団が見つかったということは、銀河団中心の大質量銀河の成長過程について、これまでの考えの見直しを迫るものです。高温ガスの冷却は、これまで考えられていたよりずっと星生成に果たす役割が大きいのかもしれません」(ケンブリッジ大学のMartin Rees氏。今回の研究には関わっていない)。