暗黒物質は太陽系の近くにはないかもしれない

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【2012年4月23日 ヨーロッパ南天天文台

天の川銀河の星の動きを詳しく観測し、太陽系の近くにあるとみられる大量の暗黒物質(ダークマター)を検出しようという研究がチリのグループによって行われた。だが、暗黒物質の痕跡は見つからなかった。理論と観測的事実の違いはなぜなのか、新たな謎が生まれた。


天の川のダークマター分布

天の川のダークマター分布の想像図。クリックで拡大(提供:ESO)

「暗黒物質」(ダークマター)は光では観測できず、周囲の物質との重力的な相互作用でしか存在が確認できない不思議な物質である。宇宙を構成するこの謎の物質は、もともとは銀河外縁部の高速回転を説明するために提唱されたものだった。高速回転にも関わらず物質が銀河から飛んでいくことなくつなぎとめられたまま存在できるのはなぜか。その理由が、見えない暗黒物質による重力作用によるものとされたのである。暗黒物質はいまや、銀河の形成進化理論の要ともなっている。暗黒物質は宇宙の全質量の約80%を占めていると考えられているが、実際それがどんな物質なのかは未だよくわかっていない。

暗黒物質の存在を調べるため、ヨーロッパ南天天文台(ESO)のラ・シーヤ観測所で、太陽から1万3000光年以内にある400個以上の星の動きが測定された。この新しいデータから研究チームは、従来よりはるかに大きな規模で太陽近傍空間に存在する質量を計算した。

銀河面から離れた多数の星の動きを注意深く測ることで、そこにある物質の質量を求めることができる。それらの動きは星や暗黒物質を含む全ての物質の重力相互作用の結果であるからだ。

「計算から得られた質量は、星や塵、ガスなど目に見える物質の量とぴったり一致します。意外なことに、暗黒物質に当たる質量は残りませんでした。暗黒物質が存在するのなら確実に結果に現れているはずですが、それがなかったのです」(スペイン・コンセプシオン大学のChristian Moni Bidin氏)。

従来の銀河形成モデルによれば、大量の暗黒物質が天の川銀河を球状(ハロー構造)に取り囲んでいる。その構造の詳しい形状は不明だが、太陽近傍で非常に多い量が見つかると予測されていた。だが、暗黒物質に当たる質量が見つからなかったという今回の結果からは、このハロー構造は、たとえば極端な楕円形といった予想外の形状をしているということになる。少なくとも、私たちの近くには存在しないかもしれない。

今回の研究成果により、暗黒物質と普通の物質との相互作用をとらえることで地上から暗黒物質を検出しようとする試みがうまくいかないという見通しも示された。

「しかし、この結果があっても、天の川銀河が目に見える物質だけを考慮した場合より高速回転しているということには変わりありません。期待していた場所で見つからなかったら、新しい解決案を考えなければなりません。我々が出した結果は、現在受けいれられているモデルをきっぱりと否定してしまいました。暗黒物質の謎は、これでさらに深まったのです」(Christian Moni Bidin氏)。