ブラックホール周囲の「ポリリズム」な振動を発見

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【2011年9月20日 国立天文台

国立天文台の加藤成晃研究員らのグループは、超巨大ブラックホールの周りに形成される「大気(降着円盤)」における複数周期の振動を、世界で初めて観測することに成功した。今後、この振動の様子から、ブラックホールの性質を決定する「自転の大きさ」を測定することが可能になる。


降着円盤の揺らぎ

降着円盤の揺らぎを示したアニメーション動画の1コマ。動画は下記〈参照〉リンクから見ることができる

ブラックホールの性質は、質量、スピン()、電荷の3つの要素で決定されるため、これらについて調べることは非常に重要な研究テーマだ。

ブラックホールの質量は、ブラックホールの周りにある星の軌道やガスの動きから測定することができる。しかし、スピンはブラックホールの大きさの約10倍以内という非常に狭い領域にしか影響を与えず、ブラックホールの見かけの大きさは小さすぎるため、現在の観測装置ではスピンを測定することができなかった。

そこで今回、このブラックホールのスピンを観測するためにブラックホールの「大気」、すなわちブラックホールにガスが落下する時にできるガスの円盤(降着円盤)に着目した。

この円盤ではガス同士の摩擦によって、電波、X線、ガンマ線など様々な波長の電磁波が発生しており、また十分な大きさを持っているために、ブラックホールのスピンがこの降着円盤のガスに影響を与えていればその様子を観測することができる。

降着円盤のブラックホールに近い部分がスピンの影響を受けて振動すると、ブラックホールから特定の距離にあるガスもその振動にあわせて共振し、乱れが大きくなる現象が起きると考えられている。この共振する部分もブラックホールに非常に近いが、降着円盤の広い範囲が振動するために、様々な波長の電磁波に対してガスの公転と同じ周期を持つ光度変化が観測されるはずである。

今回、天の川銀河の中心にある大質量ブラックホール「いて座A*」の半径の7倍という小さい領域を見ることができる「超長基線電波干渉法(VLBI)」という電波望遠鏡を用いた手法により、降着円盤がブラックホールの影響で揺らされている様子を捉えることに成功した。

見つかった「大気の揺れ」の周期は16.8分、22.2分、31.4分、56.4分で、およそ3:4:6:10という整数比で振動していることがわかった。これはブラックホールの性質を示す複数のリズム(ポリリズム)と言えるが、振動のパターンが何故こうなるのかはよくわかっていない。

ブラックホールのスピンの大きさが変わると共振する半径や周期が変化することを利用すると、同様の方法で様々なブラックホールのスピンについても測定することができるようになると考えられる。

注:「スピン」 自転の大きさを表す尺度のことで、正確には「単位質量あたりの自転角運動量」のことを表す。