炭素物質「グラフェン」を初めて宇宙で発見

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【2011年8月18日 NASAアメリカ国立光学天文台

炭素の新素材と言われるグラフェンが初めて宇宙空間で見つかった。地球生命の素にもなっている炭素物質が自然の宇宙空間でどのように作られかを探る鍵となりそうだ。


惑星状星雲とグラフェンのイメージ図

惑星状星雲とグラフェンのイメージ図。左下はサッカーボール状のC60のイメージ。クリックで拡大(提供:IAC; original image of the Helix Nebula (NASA, NOAO, ESA, the Hubble Helix Nebula Team, M. Meixner, STScI, & T.A. Rector, NRAO.))

多数の炭素原子が網目のように結びつき、この網が中空の立体構造を作った分子を「フラーレン」と呼ぶ。60個の炭素原子がサッカーボール状に結合したC60やラグビーボール形状のC70は、2010年7月に今回と同じ赤外線天文衛星「スピッツァー」によって初めて宇宙空間での存在が確認されている。

今回初めて宇宙空間で発見されたのは「グラフェン」と呼ばれる分子で、フラーレンの網構造が平面に広がったものだ。2004年にイギリスのKonstantin Novoselov氏とAndre Geim氏が初めて人工合成に成功した(注1)。炭素原子がシート状に結合したグラフェンは薄くても弾力性に富み、電気を通しやすい。コンピュータやモニター、太陽パネルなどへの応用も考えられている「未来の新素材」だ。

スペイン・カナリア天体物理研究所(注2)のDomingo Aníbal García-Hernández氏らの研究チームがグラフェンの存在の兆候を発見したのは、大小マゼラン雲にある惑星状星雲(最期を迎えつつある恒星がその周りにガス物質を放出して作られる天体)だ。同じ領域からは、銀河系外では初の発見となるC70も見つかっている。

研究者たちは、宇宙空間に自然存在するグラフェンがどのような過程で作られるかに興味を注いでいる。宇宙空間における炭素の化学反応過程を知ることは、炭素でできている地球の生命がどのように作られたかを知ることにもつながるからだ。

2010年の発見以来、フラーレンなどの複雑な炭素物質は水素が豊富な環境で生成できることがわかってきている。グラフェンやC60、C70は、水素を含む炭素の粒子が衝撃波の影響で壊されて作られると考えられるという。

これまでにフラーレンは地球に落ちてきた隕石に含まれる地球外ガスから見つかっており、サッカーボール状のC60が水分を蓄えていることも最近発見された。このことから、フラーレンは宇宙から地球に物質を運ぶ役目を果たしてきたと考えられる。ひょっとしたらその中に生命の素が存在したのかもしれない。

注1:「グラフェンの合成」 Novoselov氏とGeim氏はこれらの研究により2010年にノーベル物理学賞を受賞した。

注2:「カナリア天体物理研究所」 アフリカ北西沖、スペイン領カナリア諸島のテネリフェ島にある。

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