はくちょう座X-1から偏光ガンマ線を初観測

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【2011年4月27日 ヨーロッパ宇宙機関

ブラックホールの存在が予想されているはくちょう座X-1から、偏光ガンマ線が初めて観測された。ガンマ線はただの熱による放射ではなくジェットに由来するものだとわかり、ブラックホールという謎の天体を探る手段がまた1つ増えた。


(はくちょう座X-1のイメージ図)

はくちょう座X-1のイメージ図。主星(左)からブラックホール(右)にガスが落ち込んで円盤が形成され、ジェットが噴出している。クリックで拡大(提供:ESA)

(はくちょう座X-1のスペクトル図)

はくちょう座X-1のスペクトル図。横軸がガンマ線のエネルギー量、縦軸が検出器に入ってくる頻度。400keVまではほとんど偏光がないが、右下や左上のグラフのように、高エネルギー側では偏光(振幅の高さ)が大きくなっていることがわかる。クリックで拡大(提供:Philippe Laurent et al.)

はくちょう座X-1は強力なX線を出す連星系として知られており、古くからよく調べられている天体の1つだ。主星は青色巨星で、その伴星はブラックホールの最有力候補として知られている。

ブラックホールは非常に強力な重力により光さえも逃げ出せない天体として知られているが、このように連星系を形成している場合には少し事情が異なる。ブラックホールが主星からガスを吸い取って円盤を形成し、ガスが円盤中で回転する際の摩擦熱でX線を出すことが知られている。

このはくちょう座X-1の伴星は、X線観測が可能になった1960年代に初めてX線が観測された。2006年にはヨーロッパ宇宙機関(ESA)のガンマ線観測衛星「インテグラル」がはくちょう座X-1からガンマ線(X線より波長が短く高エネルギー)を観測していたが、その起源ははっきりしなかった。

理論上は、連星系を作るブラックホールでは円盤からジェットが噴出し、そこからガンマ線が観測されるはずで、しかもそのガンマ線は偏光(注1)していることが予想されていた。しかしその検出は非常に難しいものであった。

「インテグラル」は今回約8年ごしで、はくちょう座X-1から偏光ガンマ線を観測することに成功した。これは連星系の天体からは初めての観測であり、偏光ガンマ線の観測という意味でも、太陽を除けば、同じく「インテグラル」が2008年に観測した「かに星雲」に次いで2例目である。

この偏光の原因は現時点で2つの仮説が立てられている。1つはシンクロトロン放射(注2)、もう1つは逆コンプトン放射(注3)である。これらは共に熱によって発生するのではなく、おそらく円盤のジェットが起源であると考えられる。

偏光ガンマ線を生み出していると考えられるジェットには磁場が大きく関係していると考えられる。今回観測されたガンマ線の偏光の理由を探ることで、このジェットやブラックホールの謎を解く手がかりが得られると期待される。

注1:「偏光」 波の性質としての光が振動する方向が、ランダムではなく偏っていることを言う。普通の光はあらゆる方向に振動している光が混在している。

注2:「シンクロトロン放射」 電荷を持った電子などの高エネルギー粒子が磁場中で曲げられた際に光が発生する現象のこと。特定の方向に偏光して発生するという特徴を持つ。

注3:「逆コンプトン放射」 光子が電子にぶつかって光が散乱する現象を「コンプトン散乱」と言うが、逆に光速に近い電子が光子にぶつかることで非常にエネルギーの高い電磁波を出す現象を指す。