ぎょしゃ座イプシロン星の皆既食が終了、増光開始

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【2011年4月7日 金井三男さん】

27.1年という長周期で明るさが変化する食変光星、ぎょしゃ座ε(イプシロン)星「アルマーズ」が2009年11月から493日間にわたる皆既食を終了し、増光を開始したようだ。金井三男さんによる観測報告をご紹介しよう。


文:プラネタリウム解説員 金井三男さん

(ぎょしゃ座ε星の位置を示した星図)

ぎょしゃ座ε星(アルマーズ)の位置。4月の午後8〜9時ごろ西の空に見える。ステラナビゲータ Ver.9で作成。クリックで拡大

(ぎょしゃ座ε星の変光記録のグラフ)

ぎょしゃ座ε星の変光記録と予測。クリックで拡大(提供:金井三男さん)

《ぎょしゃ座ε星の食》

筆者の観測によれば、ぎょしゃ座ε星の皆既食はほぼ予想どおり3月19日に終了したようで、その後10日あまりほぼ順調に(やや速めかもしれない)増光中だ。

皆既食の継続期間は予報では455日だったが、皆既食開始が予報より1ヶ月以上早まったことなどにより大幅に伸び、493日となった。20世紀に入りこの星が精密に観測されるようになってから、この期間は伸びる傾向が続いている。

一方、部分食開始は予報より遅れた。部分食終了は今年5月中頃と思われるが、明確にならないことには伴星の正確なデータもわからない。部分食の継続期間は短縮する方向にもあり、5月初旬ごろの終了となることも予想される。

2009〜2011年の食変光予報
2009年 8月11日 部分食開始(第一接触)
2009年12月19日 皆既食開始(第二接触)
2011年 3月19日 皆既食終了(第三接触)
2011年 5月13日 部分食終了(第四接触)

これらのことから、主星の周囲を公転する伴星のサイズが縮小しつつあるのではという説の可能性がより高まったように思える。また、前回1983年の皆既食の真ん中の時期に0.2程度明るくなったことから、伴星はドーナツ状(リング状)円盤なのではという説があったが、今回は皆既食中央で明確な増光が見られなかった。このことについても見直しが必要かもしれない。

《ぎょしゃ座ε星に関するメモ》

距離・大きさ・形状など

2,000光年先にある二重連星で、お互いの周りを公転する間に地球方向から重なることにより明るさが変化する長周期食変光星として知られる。

主星はF0型超巨星で、半径は太陽の約280倍、質量は太陽の約15倍程度と見られる。伴星は単独のB型星で、主星の1,000分の1の明るさであることが2010年に判明した(「Sky & Telescope」2010年4月号)。伴星は通常の球状とは異なる可能性が高く、ドーナツ状、円盤状、あるいは単なる不規則雲状などさまざまな形状が想定されており確定は困難だが、質量は太陽の約14倍で半径約10天文単位(太陽の2100倍)、軌道半径27天文単位。ディスク温度は絶対温度500度であると推測される。ダスト雲はディスク状で、主星の質量から、形成後さほど時間がたっていないと見られる。主星の年齢は1000万歳程度で一生の終わりに近づいており、近々超新星爆発を起こしこのダスト雲を吹き飛ばしてしまう可能性があるという。

北半球の星座であるぎょしゃ座のε星は、北緯50度地点(カムチャッカ半島の先端付近)では毎年5月中旬から7月に観測が不可となり、それ以南では観測不可期間が増大する。

変光

1821年にドイツのヨハン・フリッチュ(Johann Fritsch)が変光を発見した。公転周期・変光周期27.1年(9892日)、変光範囲3.0〜3.8等(変動)。筆者の2008〜2010年での観測では3.05〜3.65等。F型超巨星に見られるケフェイド型小変光(約0.1等)の変光を伴う。この小変光は全体の変光に影響を及ぼしている可能性がある。「Sky & Telescope」2009年5月号の記事をもとにした筆者のデータでは、小変光の周期は、1984〜1987年(96日)、1990年(89日)、2003〜2004年(71日)、2007〜2008年(65日)だった。筆者の計算では、この食外小変光周期の減少は10年当たり6.5日になっており、このまま外挿すると西暦2058年頃に0日となる。

皆既食期間は1901年に313日、1983年に445日と増加したのに対し、食期間は1901年に727日、1983年に640日と減少した。2009〜2011年の食ではどのようになるだろうか? 7月下旬頃には完全に復光し、50〜60日前後の周期(徐々に短くなっていく)で0.1等前後の小変光を続けながら、3等前後の明るい状態を25年近く保つはずだ。次回の食は2036〜2038年と予測される。

ぎょしゃ座ε星観測史
1821年フリッチュが変光を発見
1847〜1848年シュミット(Schmidt)、ハイス(Heiss)、アルゲランダー(Argerander)が変光を確認
1874〜1875年シュミットが変光観測
1901年ルーデンドルフが長周期食変光星として周知
1928〜1930年、
1955〜1957年、
1982〜1984年
多数の人により観測された
2009〜2011年筆者ほかにより観測された

〈関連リンク〉

〈関連ニュース〉