初期宇宙における銀河成長の新たなメカニズム解明か

【2010年10月21日 ESO

ビッグバンから数十億年後の宇宙で銀河の質量は急激に増加したと考えられている。しかし、そのメカニズムについてはよくわかっていなかった。最新の研究により、遠方宇宙に存在する若い銀河が水素やヘリウムなどの原始ガスを取り込んで成長していることを示す観測的な証拠が初めて得られた。


(ビッグバンから約20億年の初期宇宙に存在する若い銀河の想像図)

ビッグバンから約20億年の初期宇宙に存在する若い銀河の想像図。周囲からヘリウムや水素などのガスが降着して多くの星が形成されている。クリックで拡大(提供:ESO/L. Calçada))

宇宙誕生から10億年も経っていないころ、この宇宙に最初に誕生した銀河の大きさは、今の天の川銀河などと比べると格段に小さかったと考えられている。では、銀河はどのようにして、大きな銀河へと進化したのだろうか。

衝突・合体の繰り返しによる成長プロセスは、銀河の進化を説明する重要なメカニズムの1つではある。しかし最新の研究によって、別のプロセスが提示された。そのプロセスとは、若い銀河が初期宇宙に満ちていた水素やヘリウムといった冷たいガスを吸収して成長するというものである。2つのメカニズムの違いは、企業が拡大を図る際、他の企業との合併という方法をとるのか、あるいは人員を増やすという方法をとるのかといった違いに例えることができるだろう。どうやら若い銀河は、別の銀河との合体および周囲にある物質の降着という両方の方法で成長できるようだ。

研究成果を発表したグループのリーダーで伊・アルチェトリ天文台のGiovanni Cresci氏は「初期宇宙で原始ガスの降着によって活発な星形成や銀河の成長が起きていたことを示す、初めての証拠が得られました」と話している。

Cresci氏らの研究グループは、天の川銀河のような周囲に円盤を持つ平均的な銀河を3つを選び出した。それらがほかの銀河との接近などによって影響を受けていないことを慎重に確認した上で、周辺から流れ込むガスの存在やそれに付随して起きる星形成の証拠探しを試みた。観測された3つの銀河は、ビッグバンから約20億年後という初期宇宙に存在する銀河である。

観測に使用されたのは、ヨーロッパ南天天文台(ESO)のVLTに搭載されているSINFONIと呼ばれる分光器である。同分光器による観測データをもとに、銀河内のさまざまな領域ごとの重元素の量を示す地図が作成された。

その地図から、銀河の中心に近いところに、重元素をほとんど含まず活発な星形成がみられる場所が見つかった。、わたしたちの天の川銀河を含めた近傍銀河では、中心領域ほど重元素が豊富に存在することがわかっている。つまり、観測された遠方銀河は、周囲にある(重元素を少ししか含まない)ガスを星形成の材料にしていることになる。

Cresci氏は「SINFONIによる分光観測は、空間的な関する情報に加えてスペクトルという別の情報を提供してくれました。おかげで、銀河の内側の動きや星間ガスの化学的な組成を明らかにできたのです」と話している。

この発見はビッグバン後の宇宙の進化に関するわたしたちの理解に重大な影響を及ぼし、銀河の形成と進化に関するこれまでの理論が書き換えられることになるかもしれないということだ。