暗黒エネルギーに支配された宇宙大規模構造を新手法で明らかに

【2010年7月29日 NRAO

電波望遠鏡を使用した新たな手法で、「宇宙大規模構造」の分布に迫る観測が行われた。この方法によって、宇宙に存在するエネルギーの4分の3を占めると考えられている、なぞの暗黒エネルギーの性質に関する貴重な情報が得られるという。


(ロバート・C・バード・グリーンバンク望遠鏡(GBT)の画像)

米・ウエストバージニア州のロバート・C・バード・グリーンバンク望遠鏡(GBT)。クリックで拡大(提供:NRAO/AUI/NSF)

宇宙の加速膨張は1998年に発見された。その理由はいまだよくわかっていないのだが、加速は暗黒エネルギーによって引き起こされていると考えられている。物理学者は競うようにして、加速を説明するためのさまざまな理論をつくっており、その理論を確かめるもっとも良い方法は、「宇宙大規模構造」の正確な観測とされている。

「宇宙大規模構造」とは、銀河の分布が示す巨大な構造である。宇宙を大きなスケールで見ると、数百個の銀河が集まった銀河団があり、その銀河団どうしを結ぶように銀河が分布していて、それが全体としてクモの巣状の構造として見えている。

カナダ・トロント大学および台湾の中央研究院のTzu-Ching Chang氏らの研究チームは、大規模構造が過去数十億年にどのように変化してきたのかを明らかにするために、水素ガスからの電波放射の強度分布を電波望遠鏡で広範囲に調べる方法を考案した。

誕生から間もない初期の宇宙は、超高温・超高密度で(電子や光、クォークといった素粒子が存在する)スープ状態だったと考えられている。そのスープ中に存在していた音波は、今も検出可能な痕跡を残していると考えられている。Chang氏らの研究チームが考案したのは、水素ガスが放射する電波の観測を通じて、その痕跡を計測するという手法だ。

Chang氏は「わたしたちのプロジェクトは、今までの調査よりずっと遠距離にある水素ガスの分布を調べました。その結果、この方法が広大な宇宙の3次元立体地図の作成に使えること、また、暗黒エネルギーに関するさまざまな理論の検証に使えることが示されたのです」と話している。

これまでに、ハワイ・マウナケア山頂にあるケック天文台の10m望遠鏡に搭載されている可視光分光器によるサーベイで、数千個の銀河の3次元的な位置が詳しく調べられている。同研究チームでは、それと同じ空域をアメリカ科学基金(NSF)のロバート・C・バード・グリーンバンク望遠鏡(GBT)を使って観測し、個々の遠方銀河からの水素ガスの放射を調べた。

米・カーネギー・メロン大学のJeffrey Peterson氏は「20世紀の初めから、研究者は銀河の観測を通じて、宇宙膨張を追い続けてきました。わたしたちの方法は、銀河の検出という段階を経ずに、一度に1000個の銀河からの電波放射を集めることができます。同時に、銀河間に存在する物質の放射もとらえることができます」と話している。

同チームでは、人工の電波や近くの天体が放射している電波を取り除いて、ひじょうに遠方に存在する水素ガスが放射する電波だけを検出する方法も生み出した。同チームでは2008年にこの方法を初めて提案し、試験的な観測をGBTによって初めて行ったのである。

その結果、得られた構造の一部と、以前に可視光観測で得られた構造との間の相関関係が明らかになった。また、これまでに検出された量を超える水素ガスが検出されたほか、距離の面においても、これまでに比べて10倍も遠い距離にある(電波を放射する)水素ガスが観測された。

NSFの主任研究員Chris Carilli氏(研究チームには参加していない)は、「宇宙の大規模構造を研究するうえで画期的な観測方法を実証してみせたことになりますね」と話している。