重力波キックではじき飛ばされたブラックホール?

【2010年7月8日 Chandra

超巨大ブラックホールどうしの合体でブラックホールがはじき飛ばされたことを示す証拠が、NASAのX線観測衛星チャンドラ、ESAのX線観測衛星XMM-Newton、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)、そのほか複数の地上望遠鏡による観測で発見された。


(チャンドラによる「CID-42」のX線画像)

チャンドラによる「CID-42」のX線画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/SAO/F.Civano et al.)

(HSTによる「CID-42」の可視光画像)

HSTによる「CID-42」の可視光画像。銀河から伸びる長い尾は、数百万年ほど前に銀河の合体が起きたことを示唆していると考えられている。クリックで拡大(提供:NASA/STScI)

ハーバード・スミソニアン宇宙物理学センターのFrancesca Civsno氏らの研究チームは、COSMOSプロジェクト(Cosmic Evolution Survey:宇宙進化サーベイ)で観測された2600個ものX線天体の中から、地球から約39億光年の距離に存在する「CID-42」と呼ばれる天体の位置が、可視光で観測された2つのコンパクトな天体と一致していることを発見した。

1枚目の画像は、チャンドラによる「CID-42」のX線画像である。一方2枚目の画像は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が同じ天体をとらえた可視光画像である。チャンドラの画像とは異なり、2つの白っぽい天体が画像のほぼ中央に分離してとらえられている。

これら2つの天体をヨーロッパ南天天文台(ESO)の大型望遠鏡(VLT)と南米チリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン6.5m望遠鏡で観測した結果、両天体の速度に大きな違いがあることが示された。その差は、少なくとも時速4800万kmと見られている。

チャンドラとXMM-Newtonの観測で得られたX線スペクトルから、鉄を豊富に含むガスの吸収線が地球から急速に遠ざかるようすが示された。これは、ガスがブラックホールへ急速に落ち込んでいるか、または、ブラックホールからさらに遠くへガスが吹き飛ばされているためと考えられている。

この観測結果を説明するために、2つのシナリオが挙げられている。1つ目は、3つのブラックホールの接近によって、2段階のプロセスが起きたというものだ。最初に2つの銀河が衝突し、接近した軌道を持つブラックホールのペアができた。そして、ブラックホールが合体する前に、さらに別の超巨大ブラックホールが、すでに存在していたブラックホールのペアに向かって落ち込んでいった。そして、3つのブラックホールが互いに及ぼす作用によって、そのうちもっとも質量の軽いものがはじき飛ばされたというのである。

このシナリオが正しければ、可視光画像中に輝く2つの天体のうち、左下の天体は超巨大ブラックホールの物質からエネルギーを得ている活動銀河核で、右上の天体の中心には合体したブラックホールが存在していると考えられる。

また、2つ目のシナリオは、2つの超巨大ブラックホールが銀河の中心部で合体したというものである。このようなプロセスでは、非対称の重力波が放出されるため、合体したブラックホールが銀河の中心から放り出されてしまうと考えられている。このシナリオの場合、重力波キックによって放り出されたブラックホールは、画像の左下に見える天体と考えられる。また、銀河の中心に取り残されたと思われる星団は右上に見えている。

2つ目の重力波キックによるシナリオは、最近オランダ宇宙研究機関(SRON;Netherlands Institute for Space Research)のPeter Jonker氏も、別の銀河の中心に発見したある天体を説明するために提唱した。Jonker氏の発見したX線源は、銀河の中心から約1万光年の距離に発見された。そのため、その正体は特異な超新星か、超高輝度のX線天体でありかつ可視光でも観測可能な天体か、または、重力波キックではじき飛ばされた超巨大ブラックホールと考えられている。