すばる望遠鏡、100億光年かなたに成熟した銀河を確認

【2010年5月24日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡による観測で、100億年前の宇宙に現在と同じくらいの大きさを持つ大質量の楕円銀河が存在していることが確認された。これにより、初期宇宙にはコンパクトな大質量楕円銀河と大きな大質量楕円銀河の両方があることが明らかになった。


(すばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam」とカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡の「WIRCAM」がとらえた遠方銀河の画像を重ね合わせたもの)

すばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam」とカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡の「WIRCAM」がとらえた遠方銀河の画像を重ね合わせたもの。四角内が観測された銀河。クリックで拡大(提供:Subaru/CFH/SAp)

(約5000万光年の距離にあるおとめ座の楕円銀河M87の画像)

近傍の大質量楕円銀河の例:約5000万光年の距離にあるおとめ座の楕円銀河M87。クリックで拡大(提供:AAO/Malin)

5年前にハッブル宇宙望遠鏡(HST)が行った撮像観測によって、質量が同じくらいの、天の川銀河に比較的近い楕円銀河と遠方の楕円銀河とを比較すると、遠方の楕円銀河の大きさは近傍のものの半分から5分の1程度の大きさしかないことが示唆された。つまり、遠方の楕円銀河の星の密度は、近傍の楕円銀河に比べて10倍から100倍も高いということになる。

この観測以来、ひじょうにコンパクトな遠方楕円銀河がどのようにして100億年間に膨張し、現在の宇宙で観測される大きさになったのかについて、論争がなされてきた。一方で、遠方楕円銀河の大きさの測定が正しいのかという疑問も投げかけられてきた。

フランス原子力庁基礎研究部門の小野寺仁人研究員らのチームは、もっとも大きな質量を持つ別の遠方楕円銀河の候補を見つけるため、すばる望遠鏡などを用いた観測を行った。いくつかの候補の中から近傍の楕円銀河と見かけがよく似た天体を選び出し、すばる望遠鏡によってさらに詳しい観測が行われた。

研究チームでは、銀河のスペクトルを測定して銀河内の星々の速度分散(速度の広がりの範囲)を測定し、その速度分散と銀河の大きさとを組み合わせて銀河の質量を推定した。すばる望遠鏡に搭載されている近赤外線観測装置「MOIRCS」を用いて遠方銀河の赤外線スペクトルを取得し、その広がりから速度分散を測定して、質量を求めたのである。

観測対象となった銀河はおよそ100億光年かなたにある。速度分散から得られた質量は、この銀河がじゅうぶんに成熟したものであることを示していた。一方、観測された大きさは約1万9000光年で、これまでに見つかっていたようなコンパクトな遠方楕円銀河に比べてずっと大きい。この結果から、初期宇宙では、現在われわれに比較的近い宇宙に見られる銀河と変わらないほど大きな大質量銀河と、ひじょうにコンパクトな大質量銀河とが共存していたという証拠が得られたのである。

ただし、異なる種類の楕円銀河がどのように形成され、進化してきたのかという謎は未だ解かれていない。研究チームはこれら2種類の楕円銀河がそれぞれどのくらいの割合で存在するのかという研究課題に取り掛かっている。その謎も、すばる望遠鏡とMOIRCSによる観測で答えが得られるかも知れない。