宇宙最大の構造が成長する現場

【2010年4月12日 理化学研究所

X線観測衛星「すざく」による銀河団の観測で、銀河団の外側に伸びる大規模な構造が発見され、そこから流れ込む冷たいガスによって銀河団が成長している証拠がとらえられた。


(宇宙におけるガスの3次元分布のシミュレーション画像)

宇宙におけるガスの3次元分布のシミュレーション画像。赤い部分が銀河団にあたる。クリックで拡大(提供:2001年のアストロフィジカル・ジャーナル 558号に掲載された、吉川氏らの研究成果より)

(銀河団Abell 1689の高温ガスの温度分布と周辺の大規模構造を示した図)

銀河団Abell 1689の高温ガスの温度分布(ピンク)と周辺の大規模構造(紫)。クリックで拡大(提供:理化学研究所)

宇宙において、正体不明の暗黒物質を除く物質のうち4割ほどは、銀河団などに付随する高温のガスとして存在していることがわかっている。銀河団は数百の銀河の集まりで、その銀河団どうしを結ぶように銀河が分布していて、全体としてクモの巣状の「大規模構造」が形成されている。しかし、この大規模な構造の中で銀河団がどのように成長していくのかは、これまでわかっていなかった。

独立行政法人理化学研究所などの研究者からなるグループは、X線観測衛星「すざく」を使って、地球から約24億光年の距離にある銀河団Abell 1689の周囲に広がる高温のガスをこれまででもっとも外側まで観測した。「すざく」は、薄く広がったX線放射に対して従来のX線天文衛星よりも高い感度を持っているため、銀河団の境界領域付近にある高温ガスのX線放射も検出することができるのである。

観測の結果、2000万度の高温ガスの中に6000万度もの高温領域があることが明らかになった。さらにスローン・デジタルスカイサーベイ(SDSS)の観測データから銀河の分布を調べ、高温ガスの分布と比較したところ、この高温領域から外側に伸びる宇宙の大規模構造が存在することが明らかとなった。ガスが加熱されるのは、大規模構造から冷たいガスが流れ込み、それが銀河団とぶつかることで衝撃波が発生するためだと考えられている。

さらに同研究グループは、高温ガスの分布をすばる望遠鏡で観測した重力レンズ現象のデータと比較した。重力レンズ効果を受けた遠方銀河を観測・分析すると、暗黒物質を含めた銀河団の質量分布を精密に測定することができる。

すると、高温領域のガスは銀河団の質量とつりあってその場にとどまった状態にあり、そのほかの領域ではガスが流れていて銀河団の質量を支えている可能性が高いこともわかった。

この観測と研究によって、銀河団が、より大きなスケールの大規模構造と作用しながら成長していくようすが初めて明らかになった。今後さらなる観測データと理論を比較することで、激しく成長する宇宙の姿が明らかになっていくと期待されている。