銀河のスリップ痕が明かす謎

【2009年6月17日 すばる望遠鏡

複数の銀河が衝突・合体する過程で残ったわずかな痕跡を、すばる望遠鏡が初めてとらえた。痕跡は衝突のようすを物語る。合体後の銀河で恒星が爆発的に誕生するしくみも解明できそうだ。


(すばる望遠鏡で撮影されたArp 220(擬似カラー表示)の画像)

すばる望遠鏡で撮影されたArp 220(擬似カラー表示)。下側に広がる構造は今回初めて見つかった。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

(すばる望遠鏡で撮影されたアンテナ銀河と痕跡の一部のクローズアップ(擬似カラー表示)の画像)

すばる望遠鏡で撮影されたアンテナ銀河。今回初めて検出された構造が拡大されている。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

米国ストーニー・ブルーク大学の幸田仁氏らの研究チームが、からす座のアンテナ銀河やへび座のArp 220など十数個の衝突銀河をすばる望遠鏡で撮影して、銀河を取り巻く衝突の痕跡をとらえた。銀河の中には、痕跡を含めると従来よりも2倍の大きさに広がっていることがわかったものもある。

研究チームのカリフォルニア工科大学のNick Scoville氏は「新しい画像を使うと、合体前の銀河の軌道を描いて、それぞれの天体について時間をさかのぼることができます。自動車事故の現場検証で、道路に残されたスリップ痕をようやく見つけたようなものです」と話す。

この観測で検証できる「現場」とは、「超高光度赤外線銀河(ULIRG)」と呼ばれる、赤外線で明るく輝く銀河だ。爆発的なペースで誕生した星が周囲のガスを暖めることで、赤外線を放射しているのだが、星が急速に形成される原因は不明だった。すばる望遠鏡の画像は、銀河が特定の方向で衝突・合体することでULIRGになったことを示している。

銀河の回転と合体の軌道が同じ方向である(つまり、左回りの銀河に対して左回りの角度で別の銀河がぶつかる)と、逆の場合に比べて合体の痕跡が大きく広がる。まさに今回すばる望遠鏡がとらえたとおりだ。さらに、合体が急速に進んでガスが中心に集まりやすくなり、爆発的な星形成が進む。

研究チームの一人、愛媛大学宇宙進化研究センターの谷口義明氏は「初期宇宙で星が誕生した主な場所として、ULIRGが有力です」と指摘する。今回の観測は、銀河の進化とともに、初期宇宙における星形成活動の解明につながるかもしれない。