すばる望遠鏡、星を取り巻く円盤に氷を発見

【2009年2月26日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡が、太陽以外の恒星を取り巻く円盤の表面に水の氷が存在することを初めて直接的に確認した。将来、この恒星のまわりに惑星が誕生したときには、今回見つかった氷を材料にして海が形成されるかも知れない。


(観測の概念図)

観測の概念図。赤色の部分が、中心の恒星から放たれて円盤で散乱される光。クリックで拡大(提供:国立天文台)

(HD 142527の原始惑星系円盤による散乱光のコロナグラフ観測画像と四角で囲んだ領域のスペクトル)

(左)HD 142527の原始惑星系円盤による散乱光のコロナグラフ観測画像、(右)四角で囲んだ領域のスペクトル(水の氷による3.1μmの吸収があることが分かる)。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

(恒星HD 142527周囲の円盤の想像図)

HD 142527周囲の円盤の想像図。クリックで拡大(提供:井上昭雄、本田充彦)

地球に生命が誕生することができたのは、そこに液体の水からなる海があったからだ。その水は、太陽系が形成される段階で材料として存在していたかもしれない。

約46億年前に生まれた太陽は、ガスとちりからなる原始惑星系円盤に囲まれていて、ちりが寄せ集まることで惑星が形成された。そして、ちりの一部に、水の凍った氷が含まれていたというのだ。この氷が原始地球に直接取り込まれたり、彗星となってから地球に衝突したりしたことで、地球の海が作られたという説がある。

300個以上の系外惑星が知られている現在でも、表面に海のある惑星は見つかっていない。一方、惑星がまさに生まれようとしている現場で「海の材料」を探そうとする試みは進展を見せている。すでに、いくつかの若い恒星の周囲に氷が存在する証拠が得られているのだ。しかし、それが惑星の材料であるちりの円盤の中にあるのか、単に周囲のガスに含まれているのかは見分けることができなかった。。

氷の分子は、波長3.1μm(マイクロメートル)の赤外線をとくに吸収する。そこで国立天文台などの研究チームは、中心の恒星が円盤を照らした際に散乱された光をすばる望遠鏡で観測し、3.1μmの赤外線がほかの波長よりも暗くなっているか調べることで、原始惑星系円盤に含まれる氷を探した。

観測されたのは、おおかみ座の方向約650光年の距離にあるHD 142527という恒星。HD 142527の年齢は200万歳程で、周囲に原始惑星系円盤があり、惑星が生まれつつあることがわかっている。波長2μm、3.1μm、3.8μmという3つの波長の赤外線で円盤を撮影した結果、波長3.1μmの散乱光だけが暗くなっていることが確認された。まさに円盤の表面に氷が存在していたのだ。

ただし、氷が検出されたのは中心のHD 142527から100天文単位(太陽から地球までの距離の100倍、海王星までの距離の3倍以上)以上離れた場所だった。円盤の内側になるほど、中心の恒星からの光にじゃまされて観測が難しくなる。今後、さらに恒星に近い位置の円盤を調べて、実際にどれだけ内側の円盤に氷が存在しているかを探るのが課題となる。

今回氷が発見された位置では、ちりが惑星にまで成長する可能性が高いとは言えないものの、彗星のような小天体が形成されることは考えられる。将来、それらの彗星が惑星系の内側へと引きずり込まれ、惑星に衝突して海をもたらすかもしれない。