火星の衛星フォボスの起源にせまる

【2008年10月23日 ESA Mars Express

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機マーズ・エクスプレスは、今年の7月から9月にかけて火星の衛星フォボスに接近した。その観測データから質量や密度が詳しくわかり、フォボスの起源にまでせまることができた。


(フォボスの画像)

2008年7月28日に351kmの距離から撮影されたフォボス。クリックで拡大(提供:ESA/ DLR/ FU Berlin (G. Neukum))

火星周回軌道から火星探査を続けているヨーロッパ初の惑星探査機マーズ・エクスプレスは、今年7月から9月の間に計8回、衛星フォボスに接近した。さまざまな角度から撮影することで、フォボスの3次元モデルが作られ、体積も正確に求められた。

探査機が天体に接近すれば天体からの引力で引っ張られるが、天体の質量が大きいほど引力も強くなる。これを利用し、マーズ・エクスプレスの動きを精密に測定することでフォボスの質量を求める試みが実施された。今のところ、質量は地球の10億分の1ほどであると計算されている。

質量を体積で割ることで、密度が1立方cmあたり1.85gであるという結果がでた。この値は火星表面の岩石が1立方cmあたり2.7〜3.3gであるのに比べて小さく、むしろ一部の小惑星に近い。それらの小惑星同様、フォボスは1個の岩石というより「がれきの寄せ集め」にちかいかもしれない。

これまでに行われた分光観測からも、フォボスの組成は小惑星に似ていることがわかっていた。そのため、もともと小惑星だったが火星の引力で捕獲されて衛星になったのではないかと考えられている。ただ、小惑星が捕獲されて衛星になった場合、その軌道はどんな向きにもなりうる。しかし、フォボスの軌道は偶然とは思えないほどぴったりと火星の赤道に沿っているのだ。

フォボスの起源に関するもうひとつの可能性は、火星に隕石が衝突した際に飛び散った岩石が寄せ集まってできたというものだ。これなら密度の小ささと軌道が説明できる。

決着をつけるにはフォボスから岩石サンプルを採取して地球で詳しく分析するしかないが、これは意外と早く実現するかもしれない。現在ロシアは2009年の打ち上げを目標にフォボスのサンプルリターン計画を進めているのだ。フォボスに着陸するには質量が正確にわかっていなければならない。そこで、今回マーズ・エクスプレスが集めた貴重なデータが利用されることになりそうだ。