火星の極冠は、なぜ南極点からずれるのか

【2008年9月26日 ESA Mars Express

火星の南極冠のなぞにせまる研究成果が発表された。火星の南極冠は夏の間、南極点からずれた非対称的な形を見せる。発表によるとその原因は、巨大なクレーターとそこに吹く強い風が作る局地的な気候にあるという。


(南極点からずれて広がる南極冠の合成画像)

南極点からずれて広がる南極冠。クリックで拡大(提供:ESA/ Image Courtesy of F. Altieri (IFSI-INAF) and the OMEGA team)

火星の南北の極には、地球と同じように極冠がある。ただし、火星の極冠は地球とは違い、凍った二酸化炭素(ドライアイス)でできている。

火星の南半球が夏を迎えると、極冠のかなりの部分は昇華(氷がガスに変化)する。残された極冠は、南極点からずれて広がることがわかっている。一方冬の間に見られる極冠は、南極点を中心に対称的に広がっている。

なぜ、南極冠は夏の間ずれているのだろうか。そのなぞを明らかにするため、伊・惑星空間物理研究所(IFSI)のMarco Giuranna氏らの研究チームは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の火星探査機マーズ・エクスプレスを使い、さまざまな高度で大気の温度などを計測した。その結果、南極付近の気候が東西で大きく異なることが明らかになったのである。

その違いは、中緯度の領域に吹く強い東風によって生じる。まず、東風が「ヘラス盆地(Hellas Basin)」と呼ばれる巨大なクレーターに吹きつける。ヘラス盆地は、直径約2300km、深さは7kmもあり、クレーター内部の壁にぶつかった風によって、大気中に海と同じような波が生じる。

この振動波によって、上層で吹く風の向きが変わり、南極地方の西半球に強い低気圧、東半球に高気圧ができる。低気圧の影響を受ける地域では、気温は二酸化炭素が凝固する温度より低くなる。そのため、二酸化炭素のガスがかたまって雪となって降る。一方、高気圧の影響を受ける地域では、霜ができるだけである。

西側では、雪が降る上に表面がなだらかなので、太陽光が多く反射されて、夏でもドライアイスが昇華しない。一方東側では、地面に生じる霜の粒子が粗いため、表面がでこぼこになる。そのため、太陽光をより多く受けて昇華が進み、やがてドライアイスは完全に消えてしまうというわけだ。