アマチュアらの観測で系外惑星HD 17156bの解明進む

【2008年4月7日 アストロアーツ】

アマチュアや大学院生を中心とした日本トランジット観測ネットワークは、2007年11月に系外惑星HD 17156bの観測を行い、その成果が2008年3月の日本天文学会春季年会で発表された。岡山の188cm望遠鏡を用いた観測結果とあわせることで、この惑星の軌道面が特異な傾きをもつ可能性が高いことが明らかになりつつある。


(恒星HD 17156の明るさの変化)

恒星HD 17156が一時的にわずかに暗くなる様子をとらえたトランジット観測の結果。横軸が時間(日の小数)、縦軸が平常を1とした恒星の明るさ。凹んだ光度曲線(黒線)が得られた。クリックで拡大(大島修さんのまとめによる)

夜空の星(太陽以外の恒星)にも惑星系が続々と発見されているが、これらの系外惑星のうち、ある条件を満たすものは、アマチュアの格好の観測対象となる。系外惑星の研究は決してプロの大型望遠鏡が必要、というわけではない。そのある条件とは、惑星が恒星面を通過すること、つまりトランジットをすることであり、トランジット観測に必要な機材は、8〜10等星の測光観測が可能な望遠鏡と冷却CCDカメラである。

日本トランジット観測ネットワークは、2004年に東京工業大学の井田茂さんと国立天文台の渡部潤一さんの呼びかけで始まった国内のアマチュアや大学院生を中心とした観測網だ。

同ネットワークは、2007年11月12日深夜から翌未明にかけて、カシオペヤ座にあるHD 17156という恒星に狙いを定めた。この星は一見何の変哲もない8等星だが、2007年に東京工業大学の佐藤文衛さんらによるすばる望遠鏡などを用いた観測で、この星を回る惑星が存在することが発見された。その後、2007年10月にはヨーロッパのアマチュアと大学とのチームによりトランジット惑星であることが報告されていた。この惑星HD 17156bによるトランジットでは恒星が0.7%ほど減光するが、これは冷却CCDカメラで検出可能な数字であり、井田茂さんらにより2007年11月13日未明の観測が呼びかけられた。

この惑星の質量は木星の3倍程度、周期21日。トランジット惑星としては長い公転周期をもち、かなりつぶれた楕円軌道をめぐる特異な惑星である。そこで日本のプロ・アマ連携の作戦として、国立天文台岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡で分光観測を行って視線速度を求め、同時にアマチュアらがトランジット観測を担うことで、恒星の自転軸や惑星の公転軸の傾きを決めるという目標が掲げられた。

集まったトランジット観測のデータは、誤差評価を経て東京大学の成田憲保さんらによる解析に生かされた。その結果、惑星の公転軸と恒星の自転軸の傾きが62±25度となり、大きく傾いている奇妙な公転軌道である可能性が高いことがわかった。もしこれが確かなら前例のない重要な結果であり、今後のより精密な追観測が望まれる。観測結果は2008年3月25日、日本天文学会春季年会で報告された。

HD 17156bのトランジット観測を行って報告したのは以下の方々。赤澤秀彦さん(倉敷市)、石隈慎一郎さん(神戸大学)、伊藤芳春さん(仙台市)、大川拓也さん(川崎市)、大島修さん(倉敷市)、清田誠一郎さん(つくば市)、高橋佑介さん(東海大)、塚田健さん(学芸大学)、中島洋一郎さん(瀬戸内市)、松本直記さん(慶応高校)。ちなみに大川さんはこのとき世界で初めてデジタル一眼レフカメラによる系外惑星のトランジットを検出している。

なお、2008年2月5日深夜にも同様の現象があり観測が呼びかけられたが、全国的に天気が悪く良質なデータを得るには至らなかった。系外惑星のトランジット観測は、CCD測光ができれば小口径の望遠鏡でも取り組むことができることから、個人や学校で観測ネットワークに参加する輪が広がっている。近年の系外惑星研究の進展については星ナビ2008年5月号の関連記事などをご覧いただきたい。

ステラナビゲータ Ver.8で系外惑星の位置を表示

ステラナビゲータ Ver.8では、HD 17156bが存在する方向を星図に表示させることができます。惑星の存在が確認された恒星約280個(ニュース公開時点)を追加天体として「コンテンツ・ライブラリ」で公開しています。ステラナビゲータ Ver.8をご利用の方は、ステラナビゲータの「コンテンツ・ライブラリ」からファイルをダウンロードしてください。

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