クレーターができたペルーの隕石落下の調査報告

【2008年3月26日 日本スペースガード協会】

火球が目撃され、地面に衝突クレーターができ、周辺住民が頭痛や吐き気を訴えて騒がれた2007年9月の南米ペルーの隕石落下について、その現地調査の初期成果が日本の研究会で紹介された。


(衝突クレーターの画像)

Tancrediさんと衝突クレーター。底には水が溜まっている。2008年1月現在、クレーターにはカバーがかけられ覆われている(研究会で紹介された画像より)

(角が折れた牛の比較)

牛の角が折れているのは、衝撃で転んだためとみられる。衝突で飛び散った破片で屋根に穴があいた建物もあった(提供:Mr. Domingo Rosales (Instituto Geofisico del Peru - IGP))

2007年9月15日、ペルーで昼間に火球が目撃され、落下地点に衝突クレーターができるという前例のない大珍事があった。現地で調査をしている研究者のひとり、ウルグアイ東方共和国で太陽系小天体を専門とするゴンザロ・タンクレディ(Gonzalo Tancredi)さんは、2008年3月22日、明星大学(東京都日野市)で開催されたスペースガード研究会でインターネットを介して調査グループの初期成果を報告した。タンクレディさんがこの件を日本に紹介したのはこれが初めて。

クレーターのできた場所はペルー共和国のデサグアデーロ(Desaguadero)のプーノ(Puno)地区。首都リマから約1600km南部、チチカカ湖のすぐ南の、ペルーとボリビアの国境付近だ。質量7〜12t(トン)の人間サイズ程度の小天体が、12〜17km/sの速度で大気圏に突入してきたと考えられる。

衝突の衝撃は地面を揺さぶった。震動は複数の地震計でとらえられ、クレーターから1600km以上離れた地点の地震計にも記録されていた。これは地球外の物体が地面に衝突して地震計で記録された初めての例ということだ。衝突時刻は地震計と空振計の記録から16時40分14秒(世界時)と正確に求められた。また、空振計の記録からは飛来の方向がほぼ東からであることが判明した。衝突角度が45〜60度と高角であることから大気減速をあまり受けておらず、衝突速度は3km/s以上、おそらく4〜8km/sであったという。これは音速の10〜20倍に相当する速度だ。周囲にはものすごい爆音が轟き、住民や動物はたいへん驚いたという。

クレーターの直径は約13mあり、落下した隕石は総質量1〜2.5tで、推定直径0.8〜1.1mと見積もられた。クレーター内には大きな破片は見当たらないというが、地下に埋まっている可能性はある。クレーター周辺には衝撃で飛び散った普通コンドライトの破片が見つかっている。

タンクレディさんは今後、このような衝突現象が再び起こるのはどのような条件なのかを調べていきたい、としている。

研究会ではペルー共和国の地球物理研究所・アンコン観測所のイシツカ ホセさんが続けてペルーからの報告を行った。イシツカさんは電波天文学の研究者であるが、ペルー国内には隕石の専門家がおらず、現地警察からの要請を受けて急きょ現地調査を行った。

隕石衝突直後、クレーター近くの住民と警察官は頭痛と吐き気を訴えて騒動になったという。イシツカさんは簡易的に放射線汚染がないことを確認し、クレーターの地磁気測定などを行った。9月末からは現地にアメリカの隕石ハンターが現れ、隕石を掘り出して大金持ちになろうと住民と打ち合わせを始めたというが、イシツカ氏はマスメディア、国会議員、市長などと連絡をとり10月1日には掘り出しをやめさせることができたという(現地で拾われたものと思われる隕石はDesaguadero隕石として市場に流通している)。

イシツカさんは今後は地磁気測定データを手がかりとして、地下3〜5mに存在するとみられる推定直径40cmほどの破片の掘り出し調査や、クレーターの屋根と博物館建設の支援、さらに現地に天文台の建設の計画を進めたい、と述べた。雨季にはクレーターがかき消されてしまうので、将来にわたる保存のためには屋根の設置がぜひとも必要であるという。