矮小銀河と球状星団をつなぐミッシング・リンク

【2007年8月29日 Gemini Observatory

銀河と星団。月とスッポンのような2つのグループだが、実はつながっているらしい。数百万個の恒星からなるひじょうに小さい矮小銀河と、数十万個の恒星が密集するひじょうに巨大な球状星団の中間に位置する天体が見つかり始めている。広い意味でとらえれば、銀河が星団になったり、星団が銀河になったりすることもあるようだ。


NGC 3311周辺

ジェミニ南望遠鏡が撮影したNGC 3311。クリックで拡大(提供:Gemini observatory / Elizabeth Wehner and William Harris)

UCDの候補天体

NGC 3311付近に散らばるUCDの候補天体(赤丸)。クリックで拡大(提供:Gemini observatory / Elizabeth Wehner and William Harris)

われわれの天の川銀河は約2,000億個の星からなるが、その円盤の中に散在している散開星団には、平均で数十〜数百の星しか存在しない。同じ「恒星の集団」でも、「銀河」と「星団」は宇宙階層構造の中で異なるスケールに属していると考えるのがふつうだ。

ところが、天の川銀河からそう遠くないところに、数百万個の恒星からなる「矮小銀河」が見つかっている。一方、天の川銀河の外縁部には数十万個の恒星が密集した「球状星団」が点在する。数だけを見れば、階層が異なるどころか仲間なのではと考えたくなるだろう。

ここ数年の間に、両者をつなぐ天体が見つかった。「超コンパクト矮小銀河」(アストロアーツ編集部仮訳、英語ではUltra Compact Dwarf、略称UCD)と呼ばれるタイプの、恒星の集まりだ。UCDに含まれる恒星の数は数百万個以上で、かろうじて「矮小銀河」と呼べる。しかし、典型的な矮小銀河に比べてひじょうに暗く、星が狭い領域に密集しているのは「球状星団」を思わせる特徴だ。

UCDはふつうの銀河に比べるとひじょうに暗いため、われわれから比較的近い(1億光年以内)おとめ座銀河団やろ座銀河団などの中で数例の発見があるのみだ。そのためUCDのことはよく理解できていると言いがたい状況だが、研究を大きく押し進めそうな発見があった。

カナダの研究チームは南米チリにあるジェミニ南望遠鏡を使い、約1.76億光年の距離にある銀河団「うみへび座I(別名Abell 1060)」の銀河を観測した。うみへび座Iの中核をなす銀河「NGC 3311」は、近傍宇宙で類を見ないほど多くの球状星団を従えていることで知られている。その球状星団を分析したところ、並はずれて明るく、重元素を多く含むものが29個見つかった。

見つかった「球状星団」の明るさは、暗いもので太陽600万個、明るいものは3,000万個に相当する。球状星団にしては大きすぎる値だ。また、星の生と死が繰り返されることで増える重元素は、同じ構成員のまま数十億年以上を過ごしたと見られる球状星団にはあまり含まれていない。29個の「球状星団」は、この点でも異質だ。

一方、29個の天体のサイズは、典型的な矮小銀河に比べて10分の1しかない。こうした特徴から、研究チームはUCDの有力な候補であると考えている。

ところで、UCDはどうやって誕生したのだろう。現在、3つのシナリオが提案されている。1つは、矮小銀河の外縁部がほかの銀河にはぎとられ、コンパクトな中心核だけが残ったとするもの。2つ目は、いくつかの球状星団が合体したという考えだ。そして最後は、ふつうの球状星団と同じように誕生したという説である。どれが正解だったとしても、「矮小銀河」と「球状星団」はもはや無関係ではない。

それどころか、研究チームによれば、UCDは(3つの)異なる起源を持つ天体の寄せ集めにすぎない可能性がある。典型的な「銀河」と「星団」は明らかに異なる階層にいるが、そのあいだは、実のところなだらかな坂道になっているのかもしれない。