ダークマターから追い出された銀河たち

【2007年8月27日 NASA News Release

銀河団どうしが衝突を起こした現場で、ダークマター(暗黒物質)の塊と、そこから追い出されたように離れて存在する銀河の集団が観測された。銀河とダークマターが分離しているようすが見つかったのは初めてのことで、ダークマターの理論に大きな疑問が投げかけられている。


(銀河団Abell 520の画像)

銀河団Abell 520の画像。黄は可視光で観測した銀河、青は重力レンズから推測されるダークマターの分布、赤はX線で輝く高温のガス。クリックで拡大(提供:X-rays: NASA/CXC/UVic./A.Mahdavi et al. Optical/Lensing: CFHT/UVic./A.Mahdavi et al.)

オリオン座の方向約24億光年の距離にある「Abell 520」は、複数の銀河団(解説参照)が衝突した現場と見られている。右の画像は、NASAのX線天文衛星チャンドラの観測結果に、すばる望遠鏡とカナダ-フランス-ハワイ望遠鏡による観測結果を重ね合わせたものだ。チャンドラのX線データ(赤)は高温ガスの分布を、地上望遠鏡の可視光画像(黄)は銀河の分布を示す。さらに、いかなる手段でも直接観測できない物質、ダークマターの分布(青)が重力レンズ(解説参照)から求められた。

衝突によって、ダークマターと高温ガスの分布がずれている。同じ現象が銀河団「1E 0657-56」の観測でも見つかっているが、Abell 520で注目すべきは、銀河の分布もずれている点だ。例えば、ダークマターが密集しているにもかかわらず銀河が存在しない領域が見つかっている。また、ダークマターの「雲」の外に、銀河の集まりが存在する。

一般に、銀河の集団は、大量のダークマターの中にあるとされてきた。また、銀河団どうしが激しい衝突を起こした場合でも、銀河とダークマターが切り離されることはないと考えられていた。

英国ビクトリア大学のAndisheh Mahdavi博士は、「この観測結果は、銀河団どうしの合体に関するわれわれの理解に変更を迫るものです。もしかすると、ダークマターそのものの性質を再考する必要があるのかもしれません」と話している。

また、同大学のHendrik Hoekstra博士は、「信じられないことですが、観測結果が示しているのは、ダークマターから銀河が取り除かれたような状態といえます。このような現場がとらえられたのは初めてのことでしょう」と話している。

Mahdavi博士らの研究チームは、ダークマターから銀河が切り離された理由について2つの可能性をあげている。1つは、重力で振りまわされた銀河が、はじきだされてしまうというものだ。この可能性を説明するためにコンピュータ・シミュレーションが試みられたが、今のところ失敗に終わっている。2つ目は、重力だけでなく、ダークマターどうしに未知の相互作用が働いているとするものだ。しかし、この考え方を説明するには、新たな物理理論が必要である上に、観測結果と一致させるのは難しい。

研究チームでは、Abell 520のなぞに決着をつけるために、チャンドラに加えて、ハッブル宇宙望遠鏡による追加観測を予定している。

銀河団

銀河群より大規模な恒星の集団を銀河団と呼ぶ。直径数千万光年の空間に数百〜数千個オーダーの銀河が集まっている。銀河系にもっとも近い銀河団は「おとめ座銀河団」で、1000個以上の銀河が集まっている。私たちの局部銀河群を含めた局部超銀河団の中心に位置し、局部銀河群は「おとめ座銀河団」方向へ引きつけられていることも観測されている。(「最新デジタル宇宙大百科」より)

重力レンズ

強い重力場に生じる空間の歪みによって、通過する光が屈曲させられる現象。この重力による光の湾曲現象を、光学レンズの光路屈折になぞらえて重力レンズと呼ぶ。、銀河団の周りに巨大な円弧状のリング像の一部が発見されたり、四葉のように見えたりする例など、重力レンズ効果による特異な映像が多くとらえられている。像の歪みぐあいから、重力天体の質量や対象天体までの距離など、さまざまな情報を得ることができる。(最新デジタル宇宙大百科より)