自然界最重量級の元素、天の川銀河以外の星からも検出

【2007年6月26日 すばる望遠鏡

国内の研究チームが、「こぐま座矮小銀河」の星からトリウムを検出した。トリウムは自然界に存在するもっとも重いグループに属する元素であり、われわれの天の川銀河以外で見つかったのは今回が初めてである。重い元素の合成反応が、天の川銀河以外の銀河でも似たような環境で起こっていることが示唆された。


(こぐま座矮小銀河の画像)

こぐま座矮小銀河と恒星COS82。画像はパロマー天文台サーベイによるもの。クリックで拡大(提供:国立天文台)

トリウムが見つかったのは天の川銀河から22万光年離れた「こぐま座矮小銀河」に属する赤色巨星「COS82」だ。国立天文台・総合研究大学院大学と大阪教育大学の研究チームが、すばる望遠鏡を用いて観測し、その成分を分析した。われわれの天の川銀河にはトリウムが検出された星が10個以上あるが、ほかの銀河で見つかったのは初めてである。

1つのトリウム原子は、もっとも軽い水素原子と比べると平均して約232倍の質量を持つ。ウランなどとともに、自然界に存在する元素の中ではもっとも重いグループ「アクチノイド」に分類される。アクチノイドが含まれる星については、歴史や周辺環境を推測しやすい。

宇宙誕生直後に存在した元素は、ほとんどが水素やヘリウムだ。これら軽い元素が集まって恒星となり、元素どうしが合体する核融合反応によって鉄(水素の約56倍の質量)までの元素が作られる。そこから先は、中性子を1つずつ捕獲することでより重い元素へ成長すると考えられている。ふつうの恒星の中でも、何年もかければ中性子を取り込んで少しずつ重い元素が作られる。だが、元素の中には不安定ですぐに崩壊してしまうものもある。そのため、アクチノイドなどを合成するには、一瞬のうちにたくさんの中性子を捕獲しなければならない。それは超新星爆発のような、ごく限られた特殊な環境でしか起こらない。

これまでも、COS82の重元素はゆっくりした中性子捕獲反応よりも、爆発的な状況で生成されたとする見方は強かった。これはトリウムが検出されたことで決定的となった。

ところで、アクチノイド元素が爆発的に合成される場合、生成量は環境(反応の継続時間など)に大きく左右されると考えられている。COS82と、これまでにトリウムが見つかった天の川銀河内の星とを比べると、さまざまな重元素の存在比がよく似ていた。トリウムを生成するほどの反応は、天の川銀河以外でも似たような環境で起こっているのかもしれない。

重元素の由来には、まだまだ謎が多い。超新星爆発の中で生まれるのだとしても、どの元素が、どの粒子とくっついて別の元素になるのか?今回の発見で、そのプロセスを絞り込みやすくなりそうだ。