太陽系天体の名称、日本学術会議が和訳を提言

【2007年4月10日 日本学術会議

昨年8月に国際天文学連合(IAU)総会で決まった「惑星の定義」について、日本学術会議の担当分科会および小委員会が見解を示すと共に、新しい用語の和訳を提言した。目指したのは単なる翻訳ではなく、社会や教育現場が太陽系を正しく理解できること。日本学術会議はさらに、IAUに対して定義の一部見直しも含めた提案をする予定だ。


名称 和訳
dwarf planet 準惑星
trans-Neptunian object 太陽系外縁天体
Small Solar System Bodies 太陽系小天体
TNOの新しい種族」 冥王星型天体

IAUが定めた新しい用語と日本学術会議が提言した和訳。それぞれの用語の詳細については本文参照。

結果的に惑星を8個に定める「惑星の定義」が決定したのは昨年8月、チェコ共和国プラハでのこと。しかし、国内での対応は定義を直接和訳すれば済むものではなく、社会の関心や教育への影響を考慮して、新しい概念を用いるための指針が示される必要があった。

国内での対応の中心を担ったのは、内閣府下の科学の重要項目に関する審議や提言を行う特別機関である日本学術会議。IAU総会での決定を受けて、日本学術会議物理学委員会の下に専門の検討小委員会が設けられ、日本天文学会や日本惑星科学会、学校や天文台などとも連携して報告がまとめられた。

報告は3部からなる予定。9日に発表された第1報告は、「惑星の定義」および関連する事項を小委員会の見解とともに直接説明する内容だ。しかし、小委員会は「惑星の定義」をおおむね妥当としながらも、本質的に重要なのは、定義を通して示される太陽系そのものの姿だと考えているようだ。学校教育で学ばせるべき太陽系像についてはさらに検討を重ね、第2報告にまとめるとしている。それだけでなく、混乱を招くおそれのある部分については、逆にIAUへ要望する予定で、第3報告としてまとめるとのことだ。

以上の経緯をふまえれば、太陽系天体の新しい名称について公式な和訳が提言されたとはいえ、使用には慎重になるべきだろう。

冥王星は「矮惑星」改め「準惑星」…ただし、あまり推奨されない

とりわけ「この用語・概念を積極的に使用することは推奨しない」とされたのが「dwarf planet=準惑星」だ。従来惑星に分類されていた冥王星のほかに、セレス、エリス(仮符号2003 UB313)が含まれるグループである。セレスは火星・木星間の小惑星帯に存在する天体で、冥王星とエリスは海王星よりも外側を回っている。最新の太陽系形成論によれば両者の由来はまったく異なるのに、同じカテゴリーに分類することが問題視された。

さらに、IAUの定義によれば、dwarf planetは惑星同様「自分の重力で丸くなっている」が、「付近の天体をはき散らしてしまう」ほどには大きくなっていない天体である。小委員会は、これらの概念が高校までの生徒には難しすぎると判断した。また、「丸い」ことはあいまいな基準であるとして、直径3.5キロメートルの球形小惑星が存在することを挙げた。

小委員会は「準惑星」という用語を推奨しないだけでなく、その定義自体を一部変更すべきとして、IAUに提案することを表明している。その場合でも決着までには時間がかかるので、「準惑星」は残されるが、使用する場合は混乱を招くおそれがないか、じゅうぶん注意したい。

なお、これまではdwarf planetを直訳した「矮惑星」が多く用いられてきたが、「準惑星」が提言されたことで名実ともに非公式な用語となった。

「EKBO」「TNO」から「太陽系外縁天体」へ

IAUの決議に登場した「trans-Neptunian object(TNO)」という言葉はこのとき定義されたのではなく、以前から研究者の間では世界的に使われてきた。直訳すれば「海王星以遠天体」で、その名のとおり海王星よりも外側を回る小天体の一群を指す。冥王星はそれを代表する天体だというのは、ほとんどの研究者が一致する点だった。

ところが、冥王星以外の天体が実際に発見される以前から、天体がベルト状に分布していると予測した研究者たちがいた。一般社会、とりわけ日本では彼らの名前にちなむ「エッジワース・カイパーベルト天体(EKBO)」という呼称が浸透していた(「カイパーベルト天体」と呼ばれる場合もある)。

同じ天体に対してTNOEKBOという呼称があったわけだが、この混乱は日本の場合とくに甚だしかった。小委員会はこれを機に用語の統一を図ったが、学術用語として定着したTNOでも一般に知られるEKBOでもなく、太陽系における位置づけを端的に示す用語として「太陽系外縁天体」を推奨した。

ひとまず和訳は定めたが…

「惑星の定義」の中で、「惑星」「準惑星」「衛星」のどれにも所属しないものはSmall Solar System Bodiesとされた。しかし、前提となる「準惑星」の定義があいまいである上、すでに「小惑星」や「彗星」といった用語が存在する。小委員会はこの概念自体が整理される可能性を示唆しつつ、ほぼ直訳の「太陽系小天体」という言葉をあてた。

IAUの決議でさえ正式名が決まらなかった概念がある。それは冥王星に代表される、太陽系外縁天体の(サイズが大きな)新しい種族のことだ。このことからもわかるように、この概念がそもそも定着しない可能性もある。しかし、小委員会はこの概念には意義もあるとした。ここ10年あまりで1000個以上の太陽系外縁天体が見つかり、その中には冥王星のように直径1000キロメートルを超える天体が多数存在することは、太陽系を理解する上で見過ごせないからだ。そのため、「冥王星型天体」という用語が提言された。

参考:IAU・太陽系における惑星の定義(2006年8月)

決議

国際天文学連合はここに、我々の太陽系に属する惑星およびその他の天体に対して、衛星を除き、以下の3つの明確な種別を定義する:

  1. 太陽系の惑星(注1)とは、(a)太陽の周りを回り、(b)じゅうぶん大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し、(c)その軌道の近くでは他の天体を掃き散らしてしまいそれだけが際だって目立つようになった天体である。
  2. 太陽系のdwarf planetとは、(a)太陽の周りを回り、(b)じゅうぶん大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し(注2)、(c)その軌道の近くで他の天体を掃き散らしていない天体であり、(d)衛星でない天体である。
  3. 太陽の周りを公転する、衛星を除く、上記以外の他のすべての天体(注3)は、Small Solar System Bodiesと総称する。
  • 注1: 8つの惑星とは、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8つである。
  • 注2: 基準ぎりぎりの所にある天体をdwarf planetとするか他の種別にするかを決めるIAUの手続きが、今後、制定されることになる。
  • 注3: これらの天体は、小惑星、ほとんどのtrans-Neptunian object、彗星、他の小天体を含む。

冥王星についての決議

国際天文学連合はさらに以下の決議をする:

冥王星は上記の定義によってdwarf planetであり、trans-Neptunian object新しい種族の典型例として認識する。

(強調部分を除き、国立天文台による仮訳。決議の正式な和訳は存在しない)