すばる、膨張を続ける「かに星雲」を撮影

【2007年3月13日 すばる望遠鏡

国立天文台ハワイのすばる望遠鏡が撮影した超新星残骸M1(かに星雲)の画像が公開された。広い視野を高い解像度で撮影できる主焦点カメラ(Suprime-Cam)ならではの一枚だ。細部に着目すると、超新星爆発から1000年たった今も形を変え続けていることがわかる。


(M1全体画像)

M1(かに星雲)の全体像。すばる望遠鏡主焦点カメラが撮影。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

(かに星雲の変化、1988年と2005年の変化)

左は1988年11月10日に米キットピーク天文台で撮影されたM1北部の突起状構造。右は、すばるの画像で同じ位置をクローズアップした画像。17年間の間に構造は上へと広がっている。クリックで拡大(提供:Fesen & Staker、すばる望遠鏡、国立天文台)

「かに星雲」の名前でも有名なM(メシエ)1は、小型望遠鏡で見ると小さな天体である。だが、世界最大クラスの望遠鏡で撮影するとなると、視野からこぼれんばかりに大きな天体だ。今回公開された画像はM1を悠々と収めていて、宇宙空間にぽつんと浮かんでいることを印象づける。高い解像度と集光力(像の明るさ)を持ちながら、同種の装置としてはたぐいまれな広視野を誇る「主焦点カメラ」ならではの一枚と言える。

もともとこの画像は、研究のために計画的に撮影されたのでもない。観測条件が整わずに当初の目標を断念した研究チームが、たまたますばるをM1に向けたのだ。「そのときは、何かきれいで、そのうえ主焦点カメラの能力をアピールできるような天体を見てみたかっただけでした」と研究チームの一人で国立天文台の山田亨助教授は語る。「ふたを開けてみれば、M1の膨張を見るのに役立つということで、海外の同僚もこの画像に興味を示しました」

M1はおうし座の方向7200光年の距離にある。巨大な質量を持つ恒星が一生の最期に爆発する「超新星」の残骸だ。

超新星爆発のようすは1054年に世界中で観測されている。およそ700年後、広がった超新星残骸を観測したフランスの天体観測者シャルル・メシエは、「彗星と紛らわしい天体」として「メシエカタログ」の筆頭に記載した。1969年には、周期0.33秒でX線やガンマ線を放射する「パルサー」が中心で見つかっている。その正体は、高速で回転する中性子星だ。超新星爆発によって中性子星が誕生することを決定づける、重要な証拠となった。

M1は天文学の歴史に何度も登場し、それだけ頻繁に観測された天体ともいえる。だが、爆発から1000年たった今も姿を変え続けていて、観測する意義が損なわれることは決してない。

M1 / NGC 1952 / かに星雲 / Crab nebula

西暦1054年に出現した超新星の残骸で、そのおうし座超新星の記録は中国、日本などに残っており、日本では藤原定家の明月記に記載されている。大望遠鏡ではその構造がカニの足のように見えることから、ロス卿がかに星雲と命名した。小口径望遠鏡では、佐渡ケ島のような形に見える。(「ステラナビゲータ Ver.8天体事典」より抜粋)