野辺山電波望遠鏡による「渦巻銀河の電波地図帳」

【2007年2月26日 国立天文台 野辺山

日本の研究グループが、40個の渦巻銀河を国立天文台野辺山の45m電波望遠鏡で観測した結果を公表した。同種のデータベースとしては世界最大。星の材料である「分子ガス」の地図として世界中の天文学者に公開されていて、星の形成や銀河の進化の研究に大きく貢献しそうだ。


(マルチビーム受信機“BEARS(ベアーズ)”の写真)

マルチビーム受信機「BEARS(ベアーズ)」。クリックで拡大(提供:国立天文台)

(観測された全銀河の電波写真)

観測された全銀河(40個)の一覧。クリックで拡大(提供:国立天文台)

(NGC 3627の光学写真(左)と電波写真(右)の比較)

NGC 3627の可視光写真(左)と電波写真(右)。クリックで拡大(提供:Jeff Hapeman/Adam Block/NOAO/AURA/NSF/国立天文台)

今回発表されたデータを例えて言えば、これまで衛星写真しかなかった地域を細かく調査した地図のようなものだ。発表された40の銀河はどれも1枚の画像に見えるが、実際には、天空の1点1点から届く電波を、アンテナを少しずつ動かしながら測定している。1つの銀河につき数百から数千もの点を観測した。

一度の撮影で画像を得られる可視光望遠鏡と違って、電波望遠鏡は天空の1領域から届く電波をアンテナで集め、1つの受信機で強度を観測する。今回観測に使われた長野県にある野辺山45m電波望遠鏡は、世界的に見ても屈指の大きさを誇る。アンテナのサイズが大きいほど狭い領域の電波を調べられるのだが、逆に広い範囲の画像を得るには時間がかかってしまう。今回の成果は、一度に25か所の電波を測定できる受信機「BEARS(ベアーズ)」によって実現した。

銀河を電波で観測するのは、「分子ガス」の分布を調べるためだ。ひじょうに希薄な星間ガスの中でも比較的密度が高く、ガスが原子ではなく分子として存在している領域である。分子ガスがさらに収縮することで、星が形成される。つまり、いわば星の材料であり、星の形成や銀河の進化を研究する上で欠かせない。そして、分子ガスは可視光で輝くことはなく、きまった波長の電波を放射している。

このように分子ガスを観測するには電波が最適なのだが、その電波もとても微弱だ。まして、電波望遠鏡は一度に1点しか観測できないので、これまでに分子ガスの分布が詳細に調べられた銀河は4、5個しかなかった。40個もの銀河についてそれが実現したのは画期的である。データを発表した日本のチームは国立天文台や筑波大学などの研究者からなり、BEARSを搭載した野辺山電波望遠鏡を使って2001年から観測を始めていた。

観測されたのは、分子ガスの中でも存在量が多く、かつ電波を発する「一酸化炭素分子」からの電波だ。40の銀河は、星形成が活発とされる渦巻銀河(解説参照)の中で、比較的距離が近い(8000万光年以内)ものが選ばれた。

一口に渦巻銀河といっても、棒状構造の有無や腕の多少などで細かく分類されている。今回観測された40の銀河も多様性に富んでいて、分子ガスの分布が銀河のタイプによってどう異なるのかを調べる上でよいサンプルになるという。研究グループによれば、棒状構造がはっきりしている銀河ほど分子ガスが中心に集まっているとのことだ。また、1点1点を幅広い波長の電波で観測しているため、それぞれの場所における分子ガスの速度も求められる。それぞれの銀河がどれくらい速く回転しているか、銀河の構造によって回転速度がどう変わるかを調べられるという。

今回できあがった「銀河の地図帳」はインターネットで公開されていて、世界中の天文学者が新たな知識を読み取ることが期待されている。

渦巻銀河

系外銀河の中で、星や星間物質が、凸レンズ状の中心部のまわりに渦巻き状の腕として分布する銀河のこと。中心部の球状の構造をバルジ、腕の広がる円盤部分をディスクと呼ぶ。バルジには年老いた天体が多く、最近ではその中心部に巨大ブラックホールが存在するものも観測されている。また、腕の部分には星の生成物質となる星間ガスや比較的年齢の若い星たちが多い。銀河系も従来は渦巻銀河であろうと推定されていたが、電波観測などによって、最近では棒渦巻銀河ではないかとの見方も出ている。

棒渦巻銀河

バルジ部を貫く棒状の構造が発達し、その両端から渦巻きの腕が伸びている銀河のこと。中には渦巻型と棒渦巻型の中間のような銀河もある。

(ともに「最新デジタル宇宙大百科」より抜粋)