野辺山レインボー干渉計が解き明かす暗黒の宇宙 〜88億年前の怪物銀河で星の材料が大量に見つかった!〜

【2006年12月26日 国立天文台 アストロ・トピックス(264)

国立天文台野辺山の電波干渉計「レインボー干渉計」を使った観測で、88億光年離れた銀河が、実は急成長中の巨大銀河であることがわかった。従来これほど大規模な銀河の形成は100億年以上前の宇宙にしか見つかっていなかったため、さらに現在に近いところに見つかった今回の発見は、銀河の進化や宇宙の歴史を解き明かす上で重要な結果となった。


(MIPS-J1428の想像図)

MIPS-J1428の想像図(提供:国立天文台)

(一酸化炭素分子の分布と赤外線画像)

レインボー干渉計で観測された一酸化炭素分子の分布(緑)と赤外線画像(赤)(提供:国立天文台)

国立天文台の伊王野大介研究員、東京大学大学院生の田村陽一氏らの研究グループは、野辺山レインボー干渉計を使って、うしかい座の方向の約88億光年(ビッグバンから約48億年後、現在の宇宙年齢の約35%)先の宇宙にあるMIPS-J1428 という銀河から、世界で初めて一酸化炭素分子ガス(以下、分子ガスと略記)を検出することに成功しました。その分子ガスの量は、私たちが住む天の川銀河に存在する分子ガスの実に30倍にも相当します。一般的に分子ガスは銀河を形作る星々の材料です。また最近の研究から、MIPS-J1428は天の川銀河の1000倍以上のスピードで星を生み出している「怪物銀河」であることがわかっています。したがって、今回の発見は、MIPS-J1428が星の材料をひじょうに大量に抱え、活発に星を生み出し急激に成長している若い銀河、いわば「巨大銀河の赤ちゃん」であることを示しています。

MIPS-J1428のようなひじょうに大規模な銀河の赤ちゃんは100億年以上昔の宇宙にも数個発見されていました。しかしながら、今回の観測によって、より現在に近い88億年前の宇宙にも分子ガスを大量に抱えた大きな銀河の赤ちゃんが存在していた事実が明らかになりました。どうやら、もっと最近まで銀河の誕生は続いていたようです。実はこの時代は宇宙全体でもっとも星形成が活発だった、いわば宇宙のベビーブームの時代である、という説が有力でした。したがって、今回の発見はこの説をサポートする重要な結果であることはもちろんのこと、私たちが住む天の川銀河の誕生をひも解く手がかりを提供するものです。

なお、研究グループは世界屈指の集光力をもつレインボー干渉計をもってしても、MIPS-J1428からやってくるひじょうに微弱な電波を検出するのに6時間かかりました。しかし、ALMA(アルマ;日米欧が協力して南米チリに建設中のアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計のこと)を使えば同じような天体をわずか5秒で観測できるようになります。ALMAが完成する2012年以降にはMIPS-J1428のようなガスと塵をまとった若い銀河が何千個と見つかり、毎日のように大発見が続くでしょう。

なお、この研究論文は日本天文学会欧文誌 (PASJ) Vol.58, No.6(2006年12月25日発行)に掲載されました。